Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
最終年度にあたる2004年度は、韓国の伝統スポーツであるシルムとテコンドーを中心に、これまで収集した文献資料とインタビュー調査から得た情報などを併せて分析し、植民地解放後におけるそれら組織の変遷と韓国人のエスニシティの関わりについて考察した。その間にいくつかの不明点や確認の必要性が生じたために、8月と2月にソウルの国会図書館等にて計3週間にわたる補充調査を行った。今年度になって新たに入手できた北朝鮮の情報もあり、その分析は今後の継続課題となったが、現時点で明らかになっていることは以下の通りである。一つにシルム組織の規模がドメスティックな枠の中で終始するのに比べ、テコンドーは60年代以降、その活動範囲とともに組織は世界へと拡大し、組織の運営にも政治家や経済界の要人が付くようになった。そこには朴政権下に民族意識の高揚を企図した国策としてテコンドーの国際化を進めた政治的な契機があり、その結果として後にもたらされたオリンピックの正式種目化がさらに組織の拡大を後押しする循環を招いた。一方シルムは当初から国際化という道を歩まず、活動の範囲を国内に限定していた。それにより、両者は組織の構造のみならず、ルールや競技形態にも大きな差異を生じさせ、シルムが時代とともにより恣意的に「韓国的」な様相を帯びていくのに比して、国際化したテコンドーに韓国色が付与されるケースはほとんど確認されなかった。しかし、一見正反対の現象を表出する両者ではあるが、シルムに「韓国的」なものを希求し、テコンドーを通じて韓国を世界にアピールする現象は、解放後一貫して「韓国的」なエスニシティを求めてきた文化政策とも合致し、その民族意識はインタビュー調査等によっても確認された。