ルーマニア語におけるクリティック・ダブリング構文の統語的研究
Project/Area Number |
15720080
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Field |
Linguistics
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
藤田 健 北海道大学, 大学院・文学研究科, 助教授 (50292074)
|
Project Period (FY) |
2003 – 2005
|
Project Status |
Completed (Fiscal Year 2005)
|
Budget Amount *help |
¥2,000,000 (Direct Cost: ¥2,000,000)
Fiscal Year 2005: ¥700,000 (Direct Cost: ¥700,000)
Fiscal Year 2004: ¥600,000 (Direct Cost: ¥600,000)
Fiscal Year 2003: ¥700,000 (Direct Cost: ¥700,000)
|
Keywords | ルーマニア語 / ロマンス語 / クリティック / 統語論 / 国際情報交換 / ルーマニア |
Research Abstract |
本研究は、ルーマニア語において特徴的な統語現象である目的語クリティックの重複、いわゆるクリティック・ダブリング現象を包括的に記述し、この現象に対して明瞭で妥当性の高い分析を提示することを目指す。昨年度までは、直接目的語の前置詞"pe"による標示とクリティック・ダブリング現象の関係の分析、及び直接目的語を前置する構文と当該構文との関係の分析を行い、一定の成果を得た。本年度は、昨年度までの研究成果を総括しつつ、未解決である問題の分析を進め、本研究がルーマニア語研究並びに統語論研究においてどのような位置を占め得るかという点に関して明確化に努めた。具体的には、新たな言語事実として間接目的語名詞句のクリティック・ダブリング現象に着目し、直接目的語との分析の相違を確認した上で、その相違がどのような統語的特徴の差によって引き起こされるかを分析した。更に、この分析をもとに、ルーマニア語におけるクリティック・ダブリングがどのような統語的環境において認可されるかという本研究の最終的な問題設定に対して明確な解決案を提示するに至った。この成果は、4月に刊行予定である研究論文として公表される。以下にその概要を示す。 ルーマニア語においては、特定の統語的環境においてクリティック・ダブリングが観察されるが、その環境は該当する名詞句が特定の前置詞もしくはそれに相当する要素を伴うものであるか、文頭に位置するかのいずれかである。つまり、動詞に後続する名詞句が前置詞を伴わない場合には当該現象は観察されない。これは、ルーマニア語においては名詞句と同一指示のクリティックが前置詞句の付加位置に生成され、それが形態的特性を満たすために動詞の位置に移動することによって当該現象が認可されるからである。本年度の研究において扱ったのは、直接目的語のクリティック・ダブリングよりも間接目的語のクリティック・ダブリングの方がより多くの統語的環境において観察されるという事実である。この事実を説明するには、両者に対して異なった統語構造を与えるという分析と、両者の統語構造は同一のものと仮定した上で他の統語的要因によってその違いを説明するという分析の二つが可能である。本研究では、理論的整合性及び経験的根拠を示しながら、後者の立場からの分析を提示した。両者のクリティック・ダブリングに関するふるまいが異なるのは、直接目的語は名詞句というカテゴリーに属するのに対し、間接目的語は前置詞句としてのステイタスをもつという統語的特性の違いに起因すると主張した。名詞句と前置詞句という統語的カテゴリーの違いは、単に形式的クラスが異なるという側面のみならず、指示性という意味論に関係する特性の違いを含意する。すなわち、名詞句はそれ自体現実世界に存在する実体を直接指示する能力をもっているのに対し、前置詞句はそれ自体が実体を指示するのではなく、実体を指示する名詞句をもとにしてより複合的な要素として機能するものである。この両者の違いは、クリティックと量化詞との関係付けにおいて決定的な役割を果たす。指示性の低い間接目的語は量化詞との関係付けが可能であるのに対し、指示性の高い直接目的語は量化詞との関係付けが不可能となるのである。このように考えると、クリティック・ダブリングという現象は単なる構造的な関係付けにとどまらず、意味的な要因も関与した複合的な現象であると言える。
|
Report
(3 results)
Research Products
(3 results)