Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
本研究では、植民地期台湾の日本仏教による社会事業を、教育・教化等に焦点をあて調査・分析した。そして、どのように各種事業を推進し、その展開は台湾社会にどのような影響を与えたのか、という点を考察した。日本では行政文書、宗派資料、布教師等による回顧録や聞き取り調査による資料を、台湾では総督府公文類纂、寺院所蔵文書、宗派設立機関所蔵図書・資料、そして日本僧侶と師弟関係にあった台湾人僧侶・信徒への聞き取り調査資料等を収集した。公的な文書に基礎を置きつつも私的な回顧録等でその詳細部分を補い、更に文献資料のみではなく、フィールドワークを合わせる形で、より具体的、かつ動態的な史的研究のありかたを模索した。研究成果としては、まず各宗派の社会事業展開について概略を提示することができた。また、特に曹桐宗設立の中等教育機関の歴史的変遷を分析した。詳細は日本台湾学会大会及びワークショップ「台湾における日本認識」にて報告し、来年度『台湾文献』に中国語で発表する予定である。本研究では、先行研究において植民地期の台湾の近代化が論じられる際、日本において確固なものとして構築された「近代」がそのまま台湾に導入されたという立場がとられることが多く、当時の日本の「近代」への試行錯誤やゆらぎといったものをあまり考慮しない傾向を批判し、宗派資料等を詳細に分析することにより、これまで漠然と論じられてきた植民地行政、台湾仏教勢力、本山との三者間にいかなる協力・均衡関係があったのか、その具体的な姿を呈示した。そして、事業の推進にあたっては、決して日本側が一枚岩となっていたわけではなく、また、被植民者との間では協力と抵抗といった二項対立の図式では捉えることのできない所謂「グレーゾーン」が存在しており、そこに注目する必要性に論及した。台湾における「日本」という存在について新たな視点への可能性を呈示することができたと考える。