Research Abstract |
(1)前年度に行った近世出羽国での調査結果を取りまとめ,研究発表「近世出羽国における焼畑の検地・経営・農法」に報告した。ここで報告者は,東北地方日本海側の焼畑と位置づけられる「カノ」において,安定的農地への転換に伴う面積の外延的拡大,および作付け年数の複数年化という農法的・経営的変化が進行していたことを見いだした。なおその成果の一部は,研究発表「<山村>概念の歴史性」、にも反映させた。 (2)本年度は当初,美作国・肥後国の調査を予定していたが,本研究開始以前に予備調査を行っていることから,さらに別の事例を把握すべく,薩摩国を対象として,12月に鹿児島県立図書館で資料・文献調査を行うとともに,事例候補地について予備的な現地調査を行った。その結果,台地・丘陵部で「山畑」が広範に見いだされたが,その農法的・経営的実態の詳細は,検討中である。その成果は,年度内には報告できなかったが,近い将来取りまとめる予定である。 (3)なお本年度は当初,(2)に並行して日本全体を対象とした総論的な議論を取りまとめる予定であった。現在,出羽,武蔵,越後,大和,美作,長門,土佐,肥後,薩摩の諸国に関してはある程度の概観ができる段階に報告者は達した(これに関して10月に萩市立図書館で資料・文献調査を行った)。しかしながら上記(1)の研究を通じて報告者は,各地域の自然環境と歴史的背景の差異,ならびに史料上の特性を十分に踏まえた上でなければ,充分な把握と比較が困難であると認識するに至った。それゆえ今後,(1)・(2)のような各地域の事例研究をさらに数ヶ国程度行い,その上で総論的な議論を構築することを,今後数年間の課題として継続する予定である。
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