Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
移入生物の蔓延による在来生物種の絶滅や生物多様性の消失は世界各地で深刻な問題となっているが、持ち込まれた移入種が必ずしも定着に成功するとは限らない。移入種の定着の成否に関与する要因を明らかにすることは、移入種の管理および在来種の保全を考える上で重要である。本研究では、北アメリカ原産の移入種であるニジマスについて、その定着に関わる環境条件および在来サケ科魚類に及ぼす影響を検討することを目的とした。北海道胆振地方の15河川26地点に調査区間を設け、各区間で魚類の生息密度を推定するとともに、水温、水位変動、河道形態等を表す環境要素の計測を行った。また、ニジマスとサクラマス(在来種)の生息場所利用および食性に関する調査を行った。その結果、下記3点が明らかとなった。1.ニジマスの分布が水位変動の小さい河川に限られていたことから、ニジマス定着の成否には流量変動、特に、春から初夏にかけての出水が関与していること。2.ニジマス生息量とサクラマス(在来サケ科魚類)生息量との間には相補的な関係が見られたことから、これらの間に負の相互作用が働いていること。3.ニジマスとサクラマスが共存する場合、2種間で生息場所と食性に違いが見られ、後者は開けた場所で流下動物を採餌するのに対して、前者はよりカバー(隠れ場所)を利用し、底生採餌も行うこと。今回の野外調査では、2種間に負の相互作用があることが示唆されたものの、ニジマスによるサクラマスへの負の影響が強いのか、それともその逆なのか、ということについては明確な結論を得ることができなかった。今後、野外実験や室内実験等により明らかにしていく必要がある。