Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
狭義のニガナは3倍体植物で構成され、無融合種子形成と栄養繁殖を行って広域分布をする。同種の他3亜種はそれぞれ特殊な環境に局所的に出現する。これらの集団には3倍体もあるが2倍体が主体で構成されており、有性生殖を通して環境に適応進化してきたと考えられている。前者の3倍体ニガナはアポミクト集団であるにもかかわらず比較的大きな形態的変異を集団内外で持っている。マイクロサテライト マーカーを3つ用い、紀伊半島の固有種ドロニガナと全国的に分布するニガナの集団遺伝学的解析を行った。ニガナは絶対的無性生殖種ではないことが、集団に複数の遺伝子型があることから明らかになった。全国的に調べた全集団の構成にクローン繁殖由来と考えられるものがあったが、同時に複数の遺伝子型があり花粉親として有性生殖も行っているであろうと推測した。渓流沿いドロニガナはニガナとほぼ同じ対立遺伝子を持ち、両者の遺伝的分化は質的にはなかった。しかしドロニガナの2倍体は渓流沿いの岩上にだけ現れ、この集団は近交係数が統計的有為に高かった。ドロニガナは自家不和合性を示すので渓流沿い環境の淘汰によって、近親交配由来の個体のみが残っているのではないかと思われる。たとえば、ドロニガナのもつ根出葉の多さなどの渓流沿いに適した形質が選択されるために、近親交配の個体が残っているのであろう。これは、個体レベルで適応形質と近交係数を組み合わせて解析し、証明する必要がある。ドロニガナの周辺には、3倍体の個体があるが、この集団にはクローン構造がなく、多分F1集団であろうと思われる。3倍体雑種の繁殖力の弱さが、略奪種的な3倍体ニガナから逃れて、2倍体集団がドロニガナで保持されている理由の一つかもしれない。