Research Abstract |
多検出器列CTの登場により,三次元画像は簡単に作成できるようになり,また測定精度も従来のCTに比べると格段に向上してきた。そこでCTデータを利用した三次元実体モデルの精密度を評価した。 臨床応用には,舟状骨骨折整復に着目した。舟状骨骨折は発見されたときには既に陳旧性で,骨吸収により正常の形態が崩れていることが少なくない。現在はモニター上で,2次元あるいは3次元画像を作成し,これを参考に,手術が施行されており,骨折の整復には術者の経験に基づいた勘に頼らざるを得ない。また舟状骨は,その形状の複雑さから整復も容易とは言えない。実物大モデルが利用可能となれば,より正確な整復が短時間でできる。具体的には,舟状骨骨折例の健側舟状骨をCTにて撮像し,この鏡面データより,患側の受傷前の実物大仮想モデルを作成し,手術シミュレーションとして用い整復に応用する。 基礎的実験として,遺体10手を対象に16列マルチスライスCT (Light Speed QXi : GE Medical Systems)で撮像し,舟状骨のボリュームデータを得た。撮像プロトコールはスライス厚:0.625mm,スライス間隔:0.4mm,ビーム幅:10mm,ヘリカルピッチ:0.527,電圧:120kV,電流:150mAとした。このデータを三次元imaging software (3D-DOCTOR : Able Software)に転送し,自動的に舟状骨の表面のみのデータを抽出した三次元画像を得る。しかし,自動のみでは正確な三次元画像取得は困難なため手動的な操作を加えた。これを,STLファイルに変換し,高速三次元造形機(LOM2030E)に転送して,舟状骨の実体モデルを作成した。モデル作成は3次元CADデータから紙積層立体モデルを作り,レーザー光で断面形状に切断した。モデル作成と同時に,遺体10手を解剖し舟状骨を取り出した。視覚・触診上,取り出した舟状骨とモデルはいずれも非常に類似していた。また,鏡面像のデータは,大きさ,その表面のカーブ,表面の歪み等は酷似しており臨床的に応用可能と考えられた。精密度に関しては,さらに正確に検証する必要があるので3次元非接触スキャナーを用いて,その長径・短径,表面積,体積等を検討中である。 三次元実体モデルは,現在,その材料として最も実用化が進んでいるのは各種プラスチックモデル製,光硬化樹脂の模型であり,小耳症や頭蓋骨形成異常などの修復,外傷後の整復など形成外科や整形外科領域で応用されている。しかし,その精度は低くモデル作成費も高価である。CTより得られたCAD (computer aided design)データより,我々が考案した紙を積層した実体モデルはコストダウンが計られ舟状骨1つの実体モデルの作成費用は約3千円〜4千円であった。更に,このモデルの利点はメスでカットすることが可能である。モデル作成時間比較的も短時間(全工程は約3〜4日で可能)であった。これは,実際に即した手術シミュレーションとして十分に臨床応用可能である。 またこの手法は,舟状骨骨折以外にも,患者や家族への説明や医療関係者の教材にも利用できる。
|