Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
アデノウイルスの増殖を規定するE1A遺伝子の発現をCEAプロモーターで制御し、癌細胞内でのみ増殖し細胞融解性を示すようにすることを目的に、アデノウイルスの改良をおこなった。具体的には、アデノウイルスのN末の遺伝子の一部をもつシャトルベクター上で、E1A遺伝子の直前522ntの位置に、CEAのプロモーターを導入した。これをアデノウイルスの骨格DNAと組み換えを行い、Ad.CEA522ウイルスを合成した。また、CEAプロモーターによる制御を確実にするために、460-522ntを除き、CEAプロモーターを導入したAd.CEA460も同時に分離した。まずこの2つのウイルスの細胞障害性をin vitroで検討した。CEAの発現株であるHT29と発現のないHeLa細胞に対し様々なMOI(0.01〜10)でウイルスを感染させ、24、48、72時間後の細胞活性を検討した。この際、ポジティブコントロールとして複製できるAd.type5を、ネガティブコントロールとして複製のできないAd.E1(-)LacZウイルスを各々用いて検討を行った。どちらの細胞もAd.type5の感染により細胞活性が低下し、高いMOIで感染を受けたものがより細胞障害されていた。低いMOIでも感染後の日数が経るにつれ細胞障害性は強くみられ、ウイルスの複製が示唆される結果であった。Ad.E1(-)LacZのMOI10までの感染ではいずれも細胞障害見られなかった。CEAウイルスに関しては、CEA発現株にはAd.type5と同等の障害性を示した。Ad.CEA522はCEA陰性細胞に対しても高MOIになるにつれ細胞障害性を示すことが分かり、Ad.CEA460の方がCEAの発現の有無による特異度が高いことが示された。これは、E1Aのプロモーターをあらかじめ除くことでCEAプロモーターからの発現制御がより厳密に行われたためだと推測された。このように、CEAプロモーターによりアデノウイルスの細胞障害性を制御することができたが、CEAの発現レベルが異なる細胞を用いた検討による特異度を検討すること、ウイルス自体の複製率を検討することが今後必要であり、in vivoにおける効果もマウスの腫瘍モデルを用いて行う予定である。