Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
骨のリモデリング(成長・吸収)機構の解明は、画期的骨折の治療法や新しい人工材料の開発などに大きく寄与すると考えられる。骨の強化機構は、上述した骨のリモデリング機構解明に大きな手がかりとなり得る。本研究では骨の破壊機構について、以下の仮説を提案した。仮説(1):準静的から高速負荷領域における皮質骨の強化機構は、内部に含まれるコラーゲン線維の切断機構により、ブリッジング(線維が延性破壊)、プルアウト(線維が脆性破壊)および線維強化無効の三段階に分けられる。仮説(2):高ひずみ速度領域において、皮質骨の母相(ハイドロキシアパタイト)にマイクロクラック強化機構が働き、その結果破壊強度が増加する。本計画では、これら仮説の検証を行った。骨にダメージを与える手法として、ホルムアルデヒド水溶液による化学固定法がこの種の実験に効果があると判断した。保存液にホルマリンならびにホルマリン中に共存するギ酸により骨が脱灰することを抑制するために中性緩衝ホルマリンを用い、これら保存液がウシ大腿皮質骨の破壊じん性に対してどのように影響を与えるのかを化学的・組織学的に調査した。ホルマリンならびに中性緩衝ホルマリン保存では共に無機成分が骨から溶出することから、ホルマリン中に共存するギ酸の影響は少ないと考えられる。これはむしろある種の水溶液中に骨を保存すれば単純に無機成分が溶出するとも考えられる。しかし、ギ酸の影響を抑制する目的で用いた中性緩衝ホルマリン中に骨を保存すると、軟部組織部分にリン酸カルシウム塩が再び析出するという新たな知見が得られた。以上の結果より、ウシ皮質骨の破壊じん性低下の効果を考えると、骨を構成する有機成分であるコラーゲン線維とホルムアルデヒドとの間で化学架橋が生じ、コラーゲン線維は収縮・硬化し、ウシ皮質骨の破壊じん性が低下したと結論づけた。