Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
強大音響負荷による難聴の発生のメカニズムには、内耳感覚神経上皮に対する機械的障害と代謝的障害の2種類の機序が考えられている。そのメカニズムにはグルタミン酸が重要な役割を演じているとの報告は有るが、未だ詳細な機序は不明である。そこで今回、ラットの音響外傷モデルを作成し、種々の薬剤の難聴に対する抑制効果または増強効果をみることにより、音響外傷の成立機序を解明することを目的として実験を開始した。まず、ラットに自由音場下に音響負荷を与える装置を完成させ、ラットをこの装置の中に入れて音響負荷を行った。各種の音圧、各種の暴露時間でラットの聴力閾値の変化を、聴性脳幹反応を測定することによって経時的に調べ、一過性に聴力閾値上昇を生じる負荷条件と、永続的に聴力閾値上昇を生じる負荷条件とを模索した。その結果、110dB5時間の暴露で一過性に聴力閾値上昇を生じ、115dB5時間の暴露で永続的に聴力閾値上昇を生じることが分かった。110dB5時間の一過性に聴力閾値上昇を生じる音響負荷後の聴力閾値の経時的変化を、薬剤非投与群をコントロールとして、薬剤投与群と比較検討した。その結果、ATP投与群の投与耳では、非投与耳、生理食塩水投与耳と比較して、聴力閾値の回復に要する時間が短い傾向にあった。内耳におけるグルタミン酸の濃度は、ATP投与群では、コントロール群に比較して低下しているけいこうにあった。このことから、ATPは内耳のグルタミン酸の濃度を低下させることにより、音響負荷後の聴力閾値の上昇を抑制する可能性が推測される。今後、更に詳細なメカニズムの解明のために、各種薬剤が音響負荷後の聴力閾値の経時的変化に及ぼす影響を比較検討していく。