Research Project
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
難聴・めまいの原因となる末梢性内耳障害は臨床上頻度も多く、重要な疾患である。その原因は様々なものが考えられているが、その治療法となると確立されたものは少ない。そのため新たな治療法の開発が求められている。近年新たなに様々なメカニズムを有する薬剤が開発されているが、その中で我々はHSP誘導剤に着目して研究を行ってきた。HSPは熱ショックなどのストレスの他に、薬剤などによっても誘導される蛋白であり、様々な障害因子に対し、細胞内で非特異的に防御を行なうことが知られている。なかでも、GGA(Geranylgeranylgeranylacetone:テプレノン)は日本で最も多く使用されている胃粘膜保護薬であるとともに、最近ストレス蛋白HSPを安全に誘導できるHSP誘導剤としての作用があることが報告された。このHSP誘導剤である、GGAの内耳障害に対する保護効果をみるため、モルモットを用い、薬物障害(カナマイシン)モデルによる検討を行なった。その結果、GGA非投与群に比べ、GGA投与群ではABR上有意差は認められなかったが、外有毛細胞の欠損率を比較するとGGA投与群は優位にこれを抑制した。この結果は他の報告と矛盾しない結果であった。GGAによる内耳保護効果は、薬物障害モデル以外に音響外傷モデルの実験系において十分とは言えないまでも、組織学的に内耳保護効果があることが報告されている。しかしいずれの実験系においても、障害前の投与が障害後に比べてより効果が高いと言われている。すなわち、発症後の治療薬というより、予防的投与により障害を軽減する役割のある薬剤である考えられた。推測であるが、アブミ骨手術や人工内耳挿入術など内耳に侵襲のある手術に際して、予防投与を行なうことで、術後の感音難聴もしくはめまいの軽減につながる可能性があるのではないかと考えられた。