本研究は、筆者が過去の奨励研究により教員の研修プログラムの基礎的研究を推進した結果、明らかにした諸課題の一つを解決するための方策として、授業展開におけるベテラン教員の「観察眼」を分析する視点から「授業展開力」の育成を核とする研修プログラムを開発し、大都市圏における大量採用期の若手教員の資質能力を育成するための基礎的研究に資することを目的とした。 多くの若手教員が、授業で児童にどんな声掛けをすればよいか、また、発問後の児童の答えに対して、思考力・判断力等を育成する視点から、どのような問いかけをしたり、児童同士の討論に発展させればいいのか学びたいと強く願っている。ベテラン教員は、机間指導等で「観察眼」(=授業展開のために児童から必要な情報を収集するための目の付けどころやタイミング等の総称)を発揮し、児童のしぐさや表情等の情報を収集し、指名計画立案や児童への指導助言を行っている。三脚で固定されたビデオカメラによる映像での分析では、「観察眼」の分析が事実上不可能でありそれを高める指導を行うことが困難であった。そこで、今回はウェアラブルカメラを使用し、ベテラン教員と若手教員双方の「観察眼」や声掛けの様子を具体的に分析した。 (1)ベテラン教員と若手教員を対象に、日ごろの学習指導(机間指導)においてどのような場面に着目しているかアンケートやインタビューを実施⇒この両者の間には大きな差異は見られなかった。 (2)ベテラン教員・若手教員の双方で、ウェアラブルカメラを装着し授業録画を行い、その映像を筆者が主宰する研究会のメンバーで視聴・分析したところ、①ベテラン教員は、若手教員に比べ、教室の中を広くみていて細かく視線を動かし児童の情報収集に努める傾向が強い②ベテラン教員の方が児童に目を向けている時間そのものが長いという事実も指摘された。 (3)若手教員に対して、ベテラン教員の「観察眼」の急所と考えられる上記の(2)の①、②を中心に、模擬授業を実施しながら指導を行った。 (4)若手教員へのアンケートから、自分自身の授業が改善されたことを実感できるとの回答を得られた。 結論として、若手教員の研修に当たり「観察眼」に着目することは有効であると思われる。しかし、その実施方法、回数など、適切な「量」を吟味する必要がある。また、机間指導時の会話を録音することが技術的に難しい等の問題点も見つかり、今後はそれらの改善策を模索しつつ、基礎的研究を積み重ねる必要がある。
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