日本政府が取り組んできた外国人労働者受け入れ政策はメディアに如何に報道されてきたか。本研究の目的は、外国人労働者をめぐる言説を分析し、2つの言論空間の相互依存的な関係を明らかにすることにあった。その目的を果たすべく次の方法をとった。第一に、日本の外国人受け入れ政策に関わる先行研究を調査した。第二に、新聞報道上で外国人労働者をめぐる報道が、いつごろからどのようになされてきたのか調査した。第三に、対応を進める外国人集住都市を訪問し、自治体へのインタビューを行った。2015年度に訪問したのは、滋賀県甲賀市と長浜市である。以上から次の点が明らかになった。日本では受け入れ外国人に対する施策として「多文化共生」という語句が利用されるが、その「多文化共生」なる語句が新聞紙面に登場するのは主に1990年代初頭であり、日系3世までを定住者資格で受け入れるとした出入国管理法改正に伴って主に日系南米人が増加したことを背景にしている。さらに1995年の阪神淡路大震災を契機として、多くの外国人が災害弱者として意識されたことで、登場頻度が飛躍的に増加した。実際に各自治体においても、ポルトガル語での対応や災害時の避難方法を説明するリーフレットなど日系南米人への対応を基にして、多言語対応が拡大してきた側面がある。以上から、外国人労働者に対する従来の政策には、主に日系南米人を対象としたところから拡大してきたという特徴があるが、その展開はメディアと政策の双方にみられるものであった。 一方、受け入れ外国人の多様化・多国籍化はますます進んでおり、各自治体が今後さらに多言語対応を拡大していくのか、あるいは自治体がどこまで対応していくのかという根本的な問題も指摘されうる。外国人労働者の受け入れをめぐり、上述の経路依存的な施策の特徴を支えるような議論が展開されるのか否かという点に注目して、分析を進めることが今後の課題である。
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