Outline of Annual Research Achievements |
-研究目的- 近年, 森から海までの連携を重視した流域生態系の保全が求められている. また, 陸起源有機物が干潟に生息する二枚貝に有用な餌料源であることが分かってきている. このように, 流域生態系を理解する上で, 具体的な科学的な根拠となり得る重要なツールとして, 脂肪酸の炭素安定同位体比分析が用いられている. しかし, 脂肪酸は有機物の一部分をカバーしているに過ぎない. そこで, 水圏に広く分布する光合成生物の特徴を反映すると考えられている植物色素に着目し, 新たなバイオマーカーとしてクロロフィルαなどの, 分子レベルの植物色素を構成する炭素の安定同位体比分析法を検討し, 流域生態系保全へ応用できる有機物の起源解析手法を開発することを目的とした. -研究方法- まず, 分析手法の確立のため, 高速液体クロマトグラフを用いて植物プランクトン中の色素を分離定量する分析条件を検討した. 複数の色素が分離できることを確認した後, フラクションコレクターを用いて, 植物色素を分画分取する条件を検討した. その後, 分画された植物色素の炭素安定同位体比を元素分析一安定同位体比質量分析計を用いて分析した. 実際に起源解析を行うために, 流域の上端と下端であるダム湖と河口, および河口域に位置する止水性の高い干潟内部の環境水を採水し, 分画分取後, 安定同位体比を分析した. -研究結果- 全ての環境水中における光合成色素組成は, 概ね類似していた. 主な光合成色素はクロロフィルaとクロロフィルc2であり, それらを分画分取後, 同位体比質量分析を行った. その結果を元に, 炭素源の寄与率を求める起源モデルを作成した. ダム湖と河口を端成分として, 干潟におけるクロロフィル起源を解析したところ, 河口に近い値となり, 流入した植物プランクトンと比較して, 内部生産の寄与が高いことが示唆された. 今後, 今回確立した光合成色素の炭素安定同位体比を用いる事により, 干潟における有機物源は, 内部生産と外来性, どちらに依存しているかなどの詳細な調査への適用が可能であることが示された.
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