本研究の目的は、免疫介在性疾患を有する犬の末梢血リンパ球におけるP糖蛋白質(P-gp)の発現を経時的に評価し、その発現レベルと疾患活動性や治療経過の相関性について検討することである。 犬の免疫介在性疾患の中でも一般的な免疫介在性多発性関節炎(IMPA)と診断した症例の初発時(n=7)における末梢血および末梢血単核球を採取し、P-gpの遺伝子転写量とタンパク発現量をそれぞれリアルタイムRT-PCRおよびフローサイトメーターを用いて定量した。寛解(n=5)後についてはP-gpの転写量を定量した。また、P-gpの転写量とIMPAにおける治療経過や、疾患活動性(CRP濃度)との相関性を解析した。 末梢血におけるP-gpの転写量に関しては、初発群において健常群(n=7)よりも有意に低値を示したが(P=0.03)、寛解群におけるP-gpの転写量は、初発群と比較して有意差を認めなかった。末梢血リンパ球におけるP-gpのタンパク発現量に関しては、初発群において健常群よりも有意に低値を示した(P=0.03)。初発時のCRP濃度は7例全てにおいて高値を示したが、寛解後は腫瘍を併発した2例を除く5例において基準値範囲内に低下した。 初発群においてP-gpの転写量およびタンパク発現量の低下を認めたことから、IMPAにおいては薬剤排泄能が健常犬と異なっている可能性が示された。薬剤排泄能は治療反応性に関与している可能性が高く、それらを示唆するように治療抵抗性を示す症例は認めなかった。また、寛解群におけるP-gpの転写量は初発群と比較して有意差は認めなかったが、5例中4例で上昇しており、もともとP-gpの発現が低い状況でIMPAが発症し治療により発現が増加した、もしくはIMPAの発症を機にP-gpの発現が低くなり、治療により発現が増加した可能性が示され、P-gpがIMPAの病態に関与している可能性が示された。
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