研究目的 : チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)は、従来の殺細胞性抗がん剤とは異なる心筋細胞障害など種々の副作用が発現し、イマチニブに関しては血中濃度モニタリング(TDM)による服用法管理が保険適応となっており、副作用マネジメントの重要性が示唆される。毒性管理を主目的とした場合、体内における血中濃度推移(Pharmacokinetics ; PK)および毒性発現(Toxicodynamics ; TD)の両面を考慮する必要があるが、TDに関しては、イマチニブに限らずほぼ全薬剤で毒性発現メカニズムを殆ど考慮せず統計的な傾向のみに依存している現状がある。そこで、メカニズムに基づくTD予測モデルを考慮したTDM実現のための方法論確立の試行として、まず複数のTKIに関して、心筋細胞毒性の予測法確立を目的とした。 研究方法 : 蛋白質問機能連関ネットワークを構築できることが過去に報告されているデータベースinformation Hyperlinked over Proteins (iHOP)を用い、TKIが作用する種々のキナーゼ、及びTKIによる心筋障害の毒性発現メカニズムと考えられるアポトーシスの中心的分子caspase3と共役する分子群をリストアップし、両者を統合した種々のキナーゼとcaspase3の連関を包含する分子間ネットワークを構築した。分子間ネットワークの各リンクに対し、重みを付与することで毒性の予測が定量的に可能になると考え、iHOPデータベース文献数により重み付けを行い、各キナーゼがアポトーシスに連関する程度を評価する系を構築する。また、TKIとキナーゼの解離定数を考慮し、薬物がキナーゼに与える影響を統合することで、薬物による毒性の定量予測が可能かの検証を試みた。 研究成果 : TKIが作用するキナーゼからアポトーシス関連分子までの網羅的ネットワークを構築し、各キナーゼがアポトーシスに与える影響を定性的に評価可能な系は構築されつつある。薬物による影響の定量的予測は、現在のところ充分な精度に達しておらず、引き続き、定量的精度の向上を目指し、検討を進めている。
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