【背景】転移性腎細胞癌に対する第一選択薬であるスニチニブは、用量制限毒性となる重篤な有害事象の発現頻度が高く、投与量の減量もしくは治療の中断に至る症例が多く存在する。一般には血中薬物濃度解析に基づく投与量設計が副作用を回避し、十分な臨床効果を得るために有用な手法であるとされているが、スニチニブにおいてはその血中濃度が甲状腺機能低下症の発現率のみと相関し、発現頻度の高い副作用である血小板減少症や手足症候群とは相関しないことが報告されている。さらに、日本人と欧米人に同量のスニチニブを投与した際の血中薬物濃度は両者で同程度であるが、奏功率および重篤な有害事象の発現率は共に日本人で高値となっている。このことから、スニチニブの作用発現部位である細胞内濃度が日本人で高く、そのため日本人において効果・副作用ともに強く現れている可能性があると考えられる。しかし、細胞内薬物濃度に影響するトランスポーターの遺伝子多型とスニチニブの効果もしくは副作用発現との関係について複数の研究結果が報告されているものの、それらの関係は未だ十分に解明されていない。これは、スニチニブおよびその活性代謝物の細胞内濃度には非常に多くの因子が複雑に関与しており、トランスポーターの遺伝子型のみでは細胞内薬物動態を十分に評価しきれていないことが、大きな要因の一つと考えられる。【目的】スニチニブの細胞内濃度を解析し、スニチニブの副作用や効果に対する細胞内薬物濃度の影響を直接的に評価するとともに、細胞内濃度に影響を与える因子の検討を併せて行うことで、細胞内濃度に基づいた効果および副作用の予測法を確立する。【方法】①血液中および細胞内薬物濃度度測定のために、LC-MSによる高感度測定法を確立する。②スニチニブ内服患者から血液検体を採取し、血清および細胞内濃度の指標として用いられる細胞のうち、一般臨床にて採取可能な末梢血単核球(PBMC)中のスニチニブおよびその活性代謝物濃度を測定し、臨床効果や副作用発現状況等との関係性および個人差を評価する。③スニチニブの細胞内濃度に関する変動要因を詳細に検討するため、健常人由来PBMCやヒト腎癌由来細胞株を用いたスニチニブの曝露実験を行い、腎癌細胞中薬物濃度推移とPBMC中薬物濃度推移の解離について検討し、その要因を評価する。【成果】血液中および細胞内薬物濃度度測定のためのLC-MSによる高感度測定法を確立させた。患者検体の測定の実施に向けて、本学臨床試験倫理審査委員会の承認を受けるための申請準備を行っている。今後、測定結果解析が終了し次第、論文もしくは学会発表にて研究成果を公表する。
|