【研究目的】タクロリムスは、難治性潰瘍性大腸炎(UC)の症状に応じた用量調節が可能で病状の変動に対応しやすいが、血中濃度推移と効果発現の個人差が大きいことが問題とされる。タクロリムスの主要薬物代謝酵素CYP3A5は多型性を有することから、臓器移植領域で遺伝子多型に応じた投与量調節の必要性が指摘されており、UC治療においても薬効発現に対する影響が想定される。本研究では、UCに対するタクロリムス注腸投与の有効性についての報告も踏まえ、病態指標Clinical Activity Index (CAI)に対するCYP3A5遺伝子多型の影響及び、大腸粘膜組織中のタクロリムス濃度とCYP3A5遺伝子多型との関連性を明らかにすることを目的とした。 【方法】CAIデータとCYP3A5遺伝子多型が調査可能であった12名について、各症例のタクロリムス服用開始時(day0)から14日目(day14)、day0から30日目(day30)、day14からday30までのCAI変化率を算出した。また、大腸粘膜組織の生検採取が可能であった10名については、高速液体クロマトグラフ・タンデム質量分析法により粘膜組織中タクロリムス濃度を測定し、CYP3A5遺伝子多型との関連性を解析した。なお、本研究は京都大学大学院医学研究科医学部医の倫理委員会による承認を得て実施した。 【結果・考察】CYP3A5機能欠損型患者のCAIはday0からday14にかけて低下し、以後はほぼ一定であったが、CYP3A5機能型患者のCAIは、day14からday30にかけて大きく低下した(P=0.017)。また、dayl4におけるCAIはCYP3A5機能欠損型全例(n=6)が6以下であったのに対し、CYP3A5機能型全例(n=6)が6以上を示した(P=0.0016)。タクロリムスの大腸粘膜組織中濃度/投与量比については、CYP3A5機能欠損型患者ではCYP3A5機能型患者に比べて約2倍高かった(P=0.0388)。CYP3A5遺伝子多型情報は、タクロリムスを用いた治療継続の可否判断のための一指標になると考えられ、タクロリムスの患部濃度が治療効果に影響することも示唆された。CYP3A5遺伝子多型情報は用量設定のみならず、治療効果確認のスケジュール設定に対し重要であることが示唆された。
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