Outline of Annual Research Achievements |
潰瘍性大腸炎(UC)は活動期と緩解期を繰り返す難治性の病気であり、特定疾患に指定されている。また、現在の治療薬では根治は難しく、これまでにない作用機序を持った新規治療薬の開発が望まれている。これまでに、マクロファージに存在するα_7型ニコチン性アセチルコリン受容体(α_7nAChR)の刺激を介した抗炎症作用機序(Nature, 2003)が発見され、中枢神経系から迷走神経を介した抗炎症経路が着目されている。一方で、疫学的な研究からUC患者ではうつ病を合併するケースが報告されているが、末梢の炎症と中枢の疾患との因果関係、相互の影響については不明である。そこで本研究では、中枢一末梢関連炎症に着目し、中枢抑制作用の少ない、より安全な新しいタイプのUC治療薬および抗うつ薬を開発することを目的に検討を行っている。 本年度は末梢炎症を惹起させたときに起こる中枢における遺伝子の変化を網羅的に解析することを目的として検討を行った。具体的には、これまでの検討と同様にデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を用いてマウスに慢性の大腸炎(慢性DSS腸炎モデル)を惹起し、海馬において変化する遺伝子の発現について次世代シークエンサーを用いてmRNAレベルで網羅的に解析を行った。その結果、いくつかの炎症やうつ病に関連する遺伝子を含む164種の遺伝子に変化が起きていることを見出した(97種類が誘導され、67種類が抑制された)。 本年度の検討により、末梢炎症を惹起させたときに起こる中枢における遺伝子変化のスクリーニングは完了し、いくつかのターゲットとする遺伝子の候補が絞り込まれた。今後はこれらのターゲット遺伝子に作用する薬剤の探索を行い、急性期DSS腸炎モデルや慢性期DSS腸炎モデルを用いて、その効果について生化学的、免疫学的、組織学的および行動薬理学的な様々な指標を用いて検討を行う。
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