Outline of Annual Research Achievements |
本研究は構音障害の評価及び訓練の質的向上に寄与することを目的に計画・実施された. 構音障害に対する訓練では, 訓練計画の立案時点で構音の異常を正確かつ詳細に聴取すること(聴覚判定)が重要である. しかしながら聴覚判定は主観的な評価であるため, 評価者による不一致があることが長らく問題とされてきた. そこで, 本研究では, 評価者間および評価者内の判定結果の一致度を測ることで, 聴覚判定の信頼性の向上に必要な事項を提案しようと試みた. 合計で9名の協力者(評価者)を得て, 同一のスピーチサンプルの聴取を行うことでデータを収集した. データ収集は迅速かつ安全に行えるよう, 大阪大学に設置されているREDCap(Research Electronic Data Capture)システムを用いた. 本研究では, 予備調査として行った文献的考察に基づき, 「口蓋化構音」と「構音点の後方化」と称される構音の誤りに注目し検討を行うこととした. 口蓋化構音とは福迫ら(1974), 岡崎ら(1982)により報告された, 口蓋裂術後の構音障害で頻発する異常な構音操作の一種である. 歯茎を構音点, 舌先を構音体として産生されるべき子音([t, d, s, ts, dz, n, r]など)が, 硬口蓋を構音点に, また舌背を構音体として産生され, そのため音に歪が生じる. 一方「構音点の後方化」は軟口蓋を構音点, 奥舌を構音体とする誤り音である. 文献的考察では臨床現場においてこの二つが混同されやすい状況があることが示唆された. そこで, 口蓋化構音あるいは構音点の後方化を含むスピーチサンプルを作成し, 9名の評価者の結果の一致/不一致を検討したところ, 「口蓋化構音」と判定しながらも, 構音点を「軟口蓋」とした判定が全体の10%を占めていた. また, 構音点が軟口蓋に後退している誤り音を「後方化」ではなく「置換」する判定が全体の59%を占めていた. つまり, 誤り音の定義の解釈が評価者によって異なっていることと, 構音点の後方化に関しては概念が定着していない可能性が強く疑われる結果であった. 本研究の結果から, 構音障害の聴覚判定の信頼性の向上に必要な事項として「口蓋化構音と構音点の後方化の概念の再検討」があることが示唆された.
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