Outline of Annual Research Achievements |
目的①肝疾患患者の筋肉量と実際の運動機能, およびアミノ酸代謝の関係性を調査する. 対象は肝疾患患者51名(男30名, 女21名, 62.1±14.1歳). 筋肉量はインピーダンス法での骨格筋量(SMM)と, CT撮影での骨格筋面積(SMA), 運動機能は握力, 歩行速度, 膝伸展筋力, 血中アミノ酸はBCAAとチロシンのモル比であるBTRとした. 以上の項目の相関関係を統計解析すると, 握力, 膝伸展筋力は, SMM, SMAと強い正の相関を示した. 歩行速度は, 握力, 膝伸展筋力は, SMM, SMAと中等度の正の相関を示し, BTRと弱い正の相関を示した. 以上より, 肝疾患患者への運動機能評価は, 筋肉量減少や血中内のBCAA低下を反映する簡便な指標になりうることが示唆された. 目的②AWGSのサルコペニア基準は, 肝疾患患者において術後の経過を予測する一助となりうるか. 対象は生体肝移植術前の非代償性肝硬変患者43名. AWGSのサルコヘニア運動基準(握力 : 男性26kg未満, 女性18kg未満or歩行速度 : 0.8m/sec以下)で対象をsarco群と対照群に分類した. 検定変数は, 術後から抜管までの日数(抜管), ICU退床までの日数(ICU), 初回歩行までの日数(歩行), 退院までの日数(退院), 転院率とし, Student's t-testで両群間の有意差を統計解析した. 対象43名中, sarco群は10名(年齢54.9歳 : 男性5名, 女性5名), 対照群は33名(年齢56.1歳 : 男性18名, 女性15名)であった. また, 両群間(sarco群/対照群)の術前MELDスコアは(14.4±4.1/14.9±5.0 : n. s.)であり, 肝機能は同等であった. 検定変数の有意差は, 抜管(1.3±0.5/1.4±0.9日 : n. s.), ICU(4.1±4.9/2, 8±1.2日 : P<0.05), 歩行(6.5±10.0/3.8±1.5日 : P<0.01), 退院(51.7±41.2/31.2±24.9日 : P<0.05), 転院率(30.0±0.5/6.9±0.3% : P<0.01)となった. なお, 両群間の年齢および性別に有意差は認めなかった, 以上より, AWGSのサルコペニア基準で運動機能が低下している患者は, 術前の肝機能が同等であっても術後経過が対照群よりも有意に延長していた. 非代償性肝硬変患者は, 肝血流を低下させる懸念から安静が基本とされているが, その一方で過度な安静は筋力及び筋肉量を低下させ, 術後の早期離床を困難としている可能性が示唆された. AWGSのサルコペニア基準は, 肝疾患患者の運動機能評価として有用であり, 非代償性肝硬変であっても, 十分な栄養補給下で運動療法を検討する一助となりうる.
|