Research Abstract |
男性型脱毛は,遺伝的要因が強く,男性ホルモンが関係している。テストステロンが毛包中の還元酵素により活性化され,毛乳頭に存在する受容体と結合することで,毛の細胞分裂を抑制する.しかし,なぜ脱毛が,頭髪しかも前頭・頭頂部に発生するのか,なにが部位の決定因子となっているかは未だ解明されていない.形態形成のマスター調節遺伝子として,現在39個のHOX遺伝子群が知られている.HOX遺伝子は,胎生期において体の位置情報を管理しており,成体においても組織に特徴的な発現パターンを示すことが分かってきた.近年,成人ヒト線維芽細胞においては,胎生期に獲得したHOX遺伝子の位置情報が残存しているという報告がなされた.脱毛や発毛に最も関係する毛乳頭は,線維芽細胞によって構成されている.そこで我々は,毛髪の部位決定因子としてHOX遺伝子に着目し,毛乳頭部のHOX遺伝子の発現パターンを解析するという独創的な発想に至った. 今回,39個のHOX遺伝子の発現解析には,微細な発現量を正確に検出するため,SYBR greenケミストリに基づく,リアルタイムPCR法を用いた.また,毛乳頭に限局した発現パターンを検出するため,レーザーマイクロダイセクションを導入し組織の採取を計画した.,さらに,得られた微量な検体を,組織培養によって増幅した場合,種々の増殖因子によりHOX遺伝子の発現が変化する恐れがあるため,T7-RNAポリメラーゼ法を用いて微量なRNAの増幅を行った.しかし,実際に増幅したRNAを検証した結果,均一に増幅することは非常に困難であることが判明した.そこで現在,多数本の毛髪から,顕微鏡下に毛乳頭を可能な限り採取し,解析に必要なRNAの抽出を試みている.今後,この方法を応用して,脱毛部と非脱毛部における,毛乳頭部のHOX遺伝子の発現パターンを解析する予定である.
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