本研究では、自律制御など高度な機能は有しないが、低予算で観測作業時に扱いやすい、既存の観測機器に取り付け可能な小型浮力調整装置の開発を実施した。海洋観測の作業効率の向上、費用の低減が主な目的であり、装置の設計・製作を実施した。設計・製作においては、モーターにかかるスラスト荷重の軽減、装置の防水、摺動部分の滑面加工に最も尽力した。 製作した浮力調整装置は、塩ビパイプ(径94×114mm、長さ約50cm)を筐体に用いて、内部にDCギヤドモーターおよびボールネジを収納する構造とした。0リング付きの蓋部分が移動することで体積(約500ml)が変化し、浮力を調整可能である。水圧に耐えられるように、塩ビパイプは肉厚の規格を選択し、蓋部分は15mmの塩ビ板を2-3枚重ねた構造とした。また、動定格荷重が3000kgf程度のスラスト玉軸受をボールネジと出力軸の間に接続し、体積変化時に出力軸に過度のスラスト荷重が加わらない構造とした。当初の予定よりも装置が重量化して大型化する恐れがあったため、浮力材を筐体の周囲に取り付けることで大型化を避けた。体積変化を起こす摺動部分は、駆動時および加圧時においても防水性能を保持できることが求められたため、摺動部分を可能な限り滑面に加工して0リングとの摩擦を抑えるようにした。塩ビパイプの内径加工は旋盤で行い、その後研磨することで滑面を得た。塩ビパイプが長く旋盤加工が難しかったため、摺動部分のみを切り出して加工し、加工後に残った部分と接続した。 製作後の動作試験においては、駆動時に摺動部分の防水機能が損なわれることがあった。これは摺動部分が必要な滑面に満たなかったこと、0リング部分の調整不足が原因に挙げられるが、ホーニング盤など専用の機械を用いずに、旋盤加工と研磨によってもある程度の防水を維持できたことは、今後の改良に繋がる結果であった。
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