研究目的 : 精神障害者のリハビリテーションは、退院支援や地域生活支援が政策誘導的に実施されているが、有効な技術が確立されているとは言えず、約32万人とされる入院患者の内の約半数が長期入院に至っている。本研究では再入院率の観点から、作業療法を実施した精神科疾患患者の転帰と作業療法の実施結果及び機能的な障害の関連を調査し、予後に影響する要因を明らかにすることを目的とした。 方法 : 平成15年度6月の開設後から平成27年3月31日までに作業療法を実施した入院患者553名を対象とした後方視的調査を実施し、以下の結果を得た。 (1) 対象者の内訳は、男性189名(37.1±16.7歳)、女性364名(42.7±20.3歳)であった。対象疾患は、気分障害(40.7%)が最も多く、次いで統合失調症(26.9%)が多かった。累積の再入院率は、1年未満 ; 16.1%、2年未満 ; 24.4%、3年未満 ; 28.0%、5年未満 ; 30.7%であった。作業療法を実施した患者の再入院率は他の研究結果(3年未満 ; 38.2%)と比較して低いことが明らかとなった。(2) 双極性障害患者の再入院の因子として学習機能を反映する60分間の緞通(マット作成)作業量の変化を調べた。3年以上の再入院が無い適応者は作業2回目の増加量が、3年以内に再入院した者に比べて少ないことが明らかとなった。2回目の作業の増加量は、学習機能を反映した指標であり、予後を検討する上で有用な指標と考えられた。(3) 確率的選択課題(PrST)は、統合失調症患者で障害されていることがわかった。PrSTは大脳基底核の学習回路機能を反映していることから、予後に影響する指標として有用である可能性が考えられた。 精神障碍者の予後に影響する因子として、作業量の変化に関する指標、PrSTなどの学習機能を評価する検査結果が有用である可能性を示すことができた。今後は、本研究で得られた指標を利用して、精神障害者の予後に関する前向き調査を実施していくための方法論および環境が整備できた意義は大きい。
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