Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
今年度は「ノスタルジー」という文学的・医学的観念について着目しつつ、シャトーブリアンの作品における反動性の分析を進めた。19世紀前半において、ノスタルジーは故郷、あるいは親しい人間と離れていることを原因とし、戦争や亡命など、そうした乖離を引き起こしうる事象に満ちたフランス革命期に顕著に患者数が増加した病であると認識されていた。19世紀は一般的に医学的言説と文学が緊密に相互参照する関係にあった時代であるが、ノスタルジーについての言説も例外でない。こうした状況を踏まえて、作家のテクストをノスタルジーという、喪失や記憶に関わる視座から捉え直し分析することで、研究課題である反動性についての考察を新たな角度から深めることを試みた。シャトーブリアンにおいて、過去を回想することは死者蘇生になぞらえられ、その一方で過去がすでに過ぎ去ったものであるとの認識を深めるという点で不在を顕現させることに他ならず、喪失の痛みを即座に反復するものであったが、こうした想起の構造はたしかにノスタルジー患者において観察・理解されていたものと類似している。しかし一方でシャトーブリアンのテクストに顕著なのは、革命という断絶によって決定的に社会が変質し、いわば帰還すべき場所が永遠に失われているという感覚である。ノスタルジー患者にとって、故郷の記憶を喚起すると同時に故郷との乖離を実感させる事物は病状に多大な影響を与えると考えられ、ときに危険視されていた。そこで、そうした事物が歴史的に担ってきた役割を踏まえて、作品中の表象にどのような特異性があるかを考察した。さらに、ある言葉の喚起力によって連想が牽引されてゆく様態を、地理的乖離と時間的乖離、個人的記憶と集合的記憶という視点から分析し、作家のテクストがその重層性において通常のノスタルジーを超え出る特異性を持つことを検証し、その時間的変遷について考察した。
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
All 2017
All Journal Article (1 results) (of which Peer Reviewed: 1 results, Open Access: 1 results)
仏語仏文学研究
Volume: 50号