Outline of Annual Research Achievements |
問題と目的 平山・楠見(2004)は, 情報を適切に取捨選択し, よりよく生活するためには, ものごとを客観的に捉え, 多角的・多面的に検討し適切な基準に基づき判断する, 批判的思考が重要であると述べており, 長年欧米で注目されてきた思考でもある(e. g. Halpern, 1998)。一方で, 子どもたちが積極的にお互いの考えを出し合い, 吟味・検討し, 新たなものを創り出していくような話し合いを中心と学び合う授業づくりが高まっている(e. g. 松尾・丸野, 2007)。社会で求めている力の一つに, 他者との関わりの中で話し合ったり, 解決をしたりする能力がある。こうした力の育成には, 協働学習が大きな働きをするとの認識が広がってきていると考えられる。ところが, 先行研究において協働学習の効果や評価はほとんどみられない。本研究の目的は, 協働学習を取り入れた授業の積み重ねの中で, 生徒の協働学習認識と, 学校適応感や学校生活要因が批判的思考にどのような影響を及ぼしているかを検討することである。 研究方法 質問紙調査研究 質問紙項目の構成 ①協働学習における効用感や互恵懸念について : 協働学習効用感認識尺度(石橋他, 2016)を利用する。②批判的思考について : 批判的思考態度(平山・楠見, 2004)の尺度を用いる。③学校適応感について : 学校への適応感(大久保, 2005)を用いる。④学力について : 学力は, 学校生活要因尺度(水津・児玉, 2016)の中の学業を用いる。研究対象 : 都内中学高校一貫校に在学する中学生・高校生とする。勤務校は国立大学法人の中等教育学校(研究校)であり, 中高一貫校である特色を活かし, 中学生から高校生まで様々な教科で協働学習が取り入れられて10年となる学校であり, 協働学習への理解・活用が進んでいる。倫理的配慮 東京大学ライフサイエンス研究倫理支援室に倫理審査を申請し, 審査の結果, 承認されている(承認番号16-240)。 結果 批判的思考態度の各側面を目的変数, その他の尺度の因子を説明変数としてステップワイズ法で重回帰分析を行った。その結果, 協働効用感が批判的思考態度の論理的思考への自覚を除く他の因子に正の影響を及ぼしていることが分かった。また, 論理的思考への自覚には, 学校適応感のうち被信頼・受容感及び劣等感の無さと学校生活要因の中の学業が正の影響を及ぼすことが分かった。 考察 協働学習の良さを実感できるような授業を重ねることと, 学業の意識を高めることで, 批判的思考態度の育成に効果があると考えられた。
|