Outline of Annual Research Achievements |
本研究の成果は, 主として次の2点である. 第1に, 米国の教科書Mathematics in Context(MiC)における数学的プロセスに関する「問い」の分析を通して, 数学的プロセスを重視したテキストの「問い」のあり方の一端を明らかにしたことである. その1つは, 現実事象をモデル化するプロセスそのものを促したり, そこに意識が向いたりするような「問い」を入れ込むことである. テキストという性格上, そこには, 本当は生徒自身に作成してほしい数学的モデルを記述せざるを得ない. しかしMiCでは, 元の事象と数学的モデルの違いを問うなどして, モデル化するプロセスそのものを問えるような工夫をしている. もう1つは, 今度は数学の世界内での数学的プロセスを重視するものであるが, 以前の節で探究してきた異なる文脈での解決方法を統合し, 発展させる節を設けていることである. MiCは事象の探究を重視したテキストであるため, いくつかの単元では, 各節のまとめが内容ではなく方法寄りになっていて, 最後の節で内容を統合・発展させてまとめるといった構成になっている. こうした節構成は, 内容(コンテンツ)中心でつくられている我が国の教科書とは全く異なり, 大いに参考になるものである. 第2に, 数学的プロセスに関する「問い」を重視した実践を「授業研究」として実施することで, 数学的プロセスを重視した授業のあり方について, 全国の数学教育関係者と議論する場をつくることができ, 知見を得るとともに, テキストの「問い」のあり方にフィードバックを得られたことである. そこで得られた決定的な指摘の1つは, 当該の実践での「数学的に考えるべきこと」すなわち数学的プロセスはねらいとしていたものでよかったのかということ, 本来的には何を考えるべきだったのかというものである. その点がずれている「問い」では, 数学的プロセスを遂行する資質・能力を育成することができない. 教材も, 本来的に「問うべき問い」によって決まってくる. 当然のことではあるが, 本来的に実現したいプロセスを吟味するとともに, それを実現できるような教材と「問い」を設定することの重要性が改めて明らかになった.
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