Outline of Annual Research Achievements |
申請者は, 専門とする魚類分類学の知識と技術を活かし, 東海大学海洋学部博物館(以下, 博物館)で魚類標本の収集業務を補助する大学生ボランティアを運営している. 本ボランティアが実施する作業は主に標本の作製, 写真撮影, 種同定などで, 蓄積された標本は博物館の研究・教育活動に利用されている. すでに申請者はボランティア教育の一環として, 前述の作業を正確かつ円滑に進めるためのプログラムを開発した. しかし, 本プログラムは標本に基づく研究そのものの魅力を伝えることには配慮していない. 近年, 分類学に携わる研究者は世界的に減少しており, 生物多様性の解明が著しく遅延することが危惧されている. その背景として, 分類学の面白さや重要性が十分に理解されていないことが挙げられる. そこで, 本研究ではボランティアの分類学に対する関心を高めるプログラムを開発し, パラタクソノミストとして育成することを目的とした. 開発したプログラムは次の3つの内容で構成される. ①分類学研究の基礎知識 : 分類階級, 学名, 種の定義, 標本の重要性など, 分類学を志す上での必須となる知識の講義. 分類学が学問として成立するまでの経緯やその後の進展に関する歴史にも触れた. ②形態の分析 : 複数種の複数個体から得た形態形質のデータを分析し, 識別的特徴を見極めて, 正しく分類する. 丁寧なデータの比較によって類似種も識別できることを体験的に理解できる. なお, 提供したデータは申請者による過去の研究および新たな標本分析によって入手した. ③情報収集 : 研究に役立つFishBase等のオンラインデータベースや, 文献・図書の検索に便利なウェブサイト等を紹介し, その利用方法について説明した. 以上のプログラムは分類学の概要を理解し興味を抱く切っ掛けを提供するのみならず, 通常行っているボランティア活動の意義を再認識し, より丁寧な作業を促す効果もあると考えられる.
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