本研究は、ペルシャ湾岸地域において再構築が進められている新たな安全保障システムの実態を明らかにすることを目指した。湾岸戦争以降、湾岸地域では米国とサウディアラビア等の湾岸産油国による同盟関係が安全保障システムの基軸となってきた。しかし、オバマ政権以降、米国による中東への軍事関与は停滞している。これによって米国と湾岸産油国との同盟関係に生まれる変化を質的に分析するとともに、湾岸産油国による独自の対応に着目した。 当初の研究計画では米国との軍事的関係の深いサウディアラビアとバハレーンの2カ国に焦点を当てる予定だったが、研究年度内に湾岸産油国内での対立が顕在化し、サウディアラビア、バハレーン、UAEがカタルと断交するという事態が発生した。そのため、調査地を断交の当事国であるカタルと、紛争の仲介役となったオマーンに変更し、一次資料の収集ならびに関係者へのインタビューといった現地調査を実施した。また、最新の研究動向をフォローするためにいくつかの資料を購入した。 調査の結果、以下のことが明らかになった。第一に、米国は地域秩序を維持するためのコストを同盟国である湾岸産油国に負担するよう求めるようになっている。第二に、湾岸産油国の側では、米国の意向も受けて、地域秩序を主導的に形成する役割を担おうとする姿勢を示している。しかし、その結果として、米国が意図していなかった湾岸産油国間での対立の顕在化や、サウディアラビアとイランという地域大国間の紛争がエスカレートするといった事態が発生している。安全保障システムの変化は地域秩序の不安定化を招いており、地域全体の紛争リスクを高めていると指摘することができる。
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