電子顕微鏡を用いてサンプル断面の観察を行う際に、集束イオンビーム加工装置(FIB)を用いて断面だしを行う。その際にサンプル表面に保護膜を作製することで、観察部位にイオンビームによるダメージが生じることを抑制する手法がとられている。本研究では、低コストで短時間かつ狙った微小領域に保護膜を作製する技術の開発を目的とし、微小物質の受け渡しを行う装置であるマイクロマニピュレーターのロボットアームにガラスプローブを取り付け、それにより吸い取った保護材を目的の場所にて射出することで微小領域に保護膜を作製する技術の確立を目指した。①保護材の射出方法の探索、②保護材に使用する溶剤の探索、③ガラスプローブのサイズに関する検討、以上3つを主な検討項目とした。 ①シリコンチューブの片側にガラスプローブ、反対側にブロワーを取り付け、ブロワーをプッシュすることによりガラスプローブに充填した保護材(適当な濃度の水溶性カーボンペースト)の射出を試みたところ、射出できることが確認された。ガラスプローブのマイクロマニピュレーターへの取り付けは3Dプリンターで作製した治具を用いた。 ②保護材としては導電性があり安価であることから導電性カーボンを選定した。溶媒としてカーボンに対して2.5倍以上の質量濃度になるように水を添加した場合に、ガラスプローブから射出することができ、微小領域に保護膜が形成されることが分かった。 ③ガラスプローブの先端径については、約100μmに調整することでカーボンペーストを微小領域に射出できることが明らかとなった。 以上の検討から、狙った微小領域(半径約50μm程度の円形状)に短時間で保護膜を作製する技術の開発を行うことができた。また、実際に作製した保護膜をFIBにて切削し、断面の観察を試みたところ、本方法により作製した保護膜が有効に働き、イオンビームの拡散によるサンプルへのダメージが生じていないことが確認された。
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