バンクシアはオーストラリアに生息する低木であり、山火事など高い温度にさらされた時に殻が開き種子を落とす。本研究ではバンクシアの殻の耐熱性について5種類の木材の辺材を対象試料に調べることを目的とした。 表面、断面およびX線CTによる観察の結果、バンクシアの殻は辺材よりも空隙が少ない密な構造をとり、中央部に空隙を持つ白い成分とその白い成分同士の間隙を埋めるように存在する黒い箇所に分かれていた。 EDS分析の結果、バンクシア殻の白部、黒部、および辺材とも検出されたのは炭素および酸素のみであったが、黒部は酸素元素数に対する炭素元素数の割合が辺材および白部よりも高い値をとった。 燃焼後の試料のX線CTによる観察の結果、バンクシア殻の白部は分解され空隙となっていたが、黒部は燃焼後も殻の外形および内形を保つ骨格のように残存していた。辺材は燃焼特性に大きな差異がある箇所は存在しなかった。 熱重量分析の結果、バンクシア殻の黒部はバンクシア殻の白部や辺材よりも重量減少率の推移が緩やかであり、黒部の成分が殻の耐熱性に起因していることが推察された。 IR解析の結果、辺材は樹種が異なっても同様のスペクトルを示した。バンクシア殻の白部も辺材と同様のピークを示したが、バンクシア殻の黒部は異なったスペクトルを示し、ベンゼン環に由来する1620cm-1に大きなピークを持つことが特徴であった。また、白部および黒部から抽出したリグニンのスペクトルと比較したところ、白部は抽出リグニンと異なるピークを示したが、黒部は抽出リグニンと同様のピークを示した。また、燃焼後の黒部のピークも同じ波長付近にピークを持っていた。 白部と黒部の抽出リグニンは同じ波長にピークを持っていたが、黒部の1620cm-1の強度の強さが際立っており、このことからバンクシアの殻の耐熱性は、通常のリグニンよりもベンゼン環を多く有した黒部のリグニンに由来することがわかった。
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