本研究は、西日本で分布域が重複する淡水魚カマツカ種群2種(それぞれA、Bとする)が、交雑を伴いながら共存するメカニズムを明らかにすることで、種分化に重要な生殖隔離機構と近縁種の共存機構の関係についての理解を深めることを目的とする。本年度は、東海地方の3水系の計38地点から採集したカマツカ種群729個体について、ミトコンドリアDNA塩基配列とマイクロサテライトマーカー15遺伝子座を用いて各個体の遺伝的実体を明らかにすることで、2種の流程分布および交雑状況を調べた。その結果、①カマツカ種群Aは主に下流側に、カマツカ種群Bは主に上流側に出現すること、②上流側、下流側ではそれぞれの種が単独で出現する地点がある一方、その間の区間では両種ともに出現する地点があり、地点により交雑個体の出現頻度が異なること(0%~約65%)、③上流側までカマツカ種群Aのみが出現する支流があることが明らかとなった。これらの結果は、両種の間に環境選好性の違いがあり、河川の流程レベルで棲み分けがあるという仮説を強くサポートした。また、両種の間には基本的には生殖隔離が成立しているが、その強さは地点によって異なることが示唆された。今後は、各地点の環境データと2種の出現および交雑個体の出現頻度の関係を分析することで、種分化のあとに二次的接触した近縁種が生殖隔離を成立させて共存するか、どちらか片方の種が生き残る競争排除が起こるか、もしくは交雑により融合するかという動態が、環境要因により左右されるという仮説の検証が期待される。
|