Outline of Annual Research Achievements |
南北に長い日本列島は地理的に多様な気候があり, 同種の生物であっても生息地の気候によりその生活史を変化させる. 昆虫は環境条件に応じて休眠することにより環境の季節的変化に対処してきた. それゆえ昆虫を実験材料とした同種の地理的個体群間の休眠性の比較により, 種が分布拡大をする過程での「生物の進化」を直に観察することが可能である. 本研究で扱うマメハンミョウEpicauta gorhami(コウチュウ目ツチハンミョウ科)は北海道と沖縄を除く日本各地に分布する昆虫である. 幼虫は土中のバッタ類の卵のみを摂食し, 齢ごとに形態を劇的に変化させる過変態をして, 擬蛹と呼ばれる特殊な形態をした5齢幼虫で休眠するなど他の昆虫では見られない「特異な生態」を持つ. 我々は先行研究で本種の発育パターンについて, 餌が不足(絶食)すると擬蛹での休眠を回避して小さくても蛹になりもう1世代を生み出し, 年に2回発生することを明らかにした. 本研究では, このような餌条件に依存して変化する休眠性について, 宮崎県高鍋町(北緯32.1度), 埼玉県加須市(北緯36.1度), 岩手県盛岡市(北緯39.7度)の3個体群間で比較を行った. その結果、休眠が誘導される光周期に違いが見られた. すなわち, 十分に給餌した場合は同じ温度(25℃)であっても3個体群ともに光周期によらず擬蛹休眠率が高く光周反応は不明瞭であっが, 絶食させると14L-10D(14時間明期)の光周期(自然界では8月下旬~9月上旬頃)において休眠率に有意な差が認められた(盛岡 : 97%, 加須 : 67%, 高鍋33%). これは, 緯度が高い地域は夏期の温量が少ないため, 2世代目を完了できないことから休眠傾向が強くなることが示唆された. 以上の結果は「生物の進化」について考察するものであることに加え, マメハンミョウの「特異な生態」についても触れることになる. つまり, 実習授業で学生が「特異な生態と進化」を同時に体験できる題材になるものと考えている.
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