本研究の目的は、木材の腐朽型(褐色腐朽・白色腐朽)に応じて、森林内の腐朽材上に発生する変形菌(粘菌)類の種組成の違いを明らかにし、化学的・物理的環境条件との関連を検討することである。化学的指標として材のPH、物理的指標として材の硬度を用いた。これまで、PHは変形菌類の種組成に影響を与える要因であることが指摘されている。また、材の硬度も、硬度依存的に種組成が変化することが報告されている。 調査は目視にて行い、材の腐朽型を判定し、発生した変形菌の子実体を探索した。また、発生がみられた材において、材のPHと硬度のそれぞれを測定し記録した。先行研究にのっとり、PH測定には土壌PH計を用い、硬度測定には土壌硬度計を用いた。調査地は、調査実績のある京都大学上賀茂試験地(京都府)、北沢峠周辺(長野県)および白駒池周辺(長野県)とした。実施時期は、発生が多い夏期(7月)と秋期(10月)とした。また、材を採集し、研究室にて人工気象器内等で湿室培養を行なったが、充分量のデータは確保できなかった。 調査を通じて440標本を確認し、20属44種に分類した。変形菌類の子実体は発生期間が限定され、調査地あたり3年程度の継続調査が必要とされる。本年は研究初年度であり、種ごとに解析のための十分なデータ量が集積できたとは言い難い。したがって、5標本以上確認された属ごとで報告する。白色腐朽材のみで発生が確認された属は、Eraeomyxa属、Lamproderma属であった。一方、褐色腐朽材のみで確認された属はなかった。双方で確認された属のうち、褐色腐朽材に強い指向性(>50%)を示したものは、Cribraria属、Physarm属であった。硬度に関して、双方の腐朽材で、前者は低硬度、後者が高硬度の指向性を示した。一方、PHに関しては、両属とも褐色腐朽材の数値が低く記録された。これらのことから、これら2属は低いPH環境にまで適応して、褐色腐朽材に指向を持つことが推測される。
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