Outline of Annual Research Achievements |
イリノテカンは肺癌など多くの癌腫に適応を持つ抗がん剤で、ヒトの肝及び各組織において活性代謝物(SN-38)へ直接変換され、SN-38は肝代謝酵素(UGT1A1)により無毒なSN-38Gとなり、主に胆汁中に排泄される。しかし、UGT1A1はUGT1A1*6、UGT1A1*28等の遺伝子多型が存在し、ヘテロ接合体、ホモ接合体をもつ患者の順にSN-38Gの生成能力が低下し、SN-38の代謝が遅延し、骨髄抑制などの副作用発現リスクが高くなることが報告されている。しかし、具体的な減量率やヘテロ接合体を有する患者における減量の必要性は不明で、UGT1A1遺伝子多型を有する患者それぞれに合った至適投与量の設定が重要である。 本研究では2010年4月~2017年4月の間に徳島大学病院または徳島市民病院で肺がんに対しイリノテカンを投与した患者(PS1以下, 75歳未満)のうち、UGT1A1遺伝子型が判明している者を対象とした。イリノテカン投与量は標準投与量に対する実際の投与量の治療強度を評価する相対用量強度(RDI)に基づき評価した。治療成功期間(TTF)は治療変更、死亡またはRECISTに基づきPDとなるまでの期間と定義し、電子カルテよりレトロスペクティブに調査した。対象患者31名の年齢中央値は65歳(44-74歳)であり、その内訳は遺伝子多型を有さない群(WT)12名、ヘテロ接合体群14名、複合ヘテロ接合体群1名、ホモ接合体群4名であった。ヘテロ接合体群はWT群と比較して、TTFに有意な差は認めなかったが、骨髄抑制や下痢などの副作用によりRDIは有意に低かった(79.1%vs62.1%, P<0.05)。ホモ接合体および複合ヘテロ接合体群においてもTTFに有意な差はなかったが、RDIは有意に低かった(79.1%vs46.2%, P<0.01)。 UGT1A1ヘテロ接合体を有する肺がん患者ではイリノテカンを開始する際に標準投与量の20%程度の減量を行う必要性が示唆された。この減量は治療効果を減弱させることなく、より安全な化学療法の実施につながる可能性がある。また、複合ヘテロ接合体やホモ接合体を有する患者において同様の結果を得るためには40%程度の減量が必要である可能性が判明した。
|