Outline of Annual Research Achievements |
「目は口ほどにモノを言う」ということわざの通り、様々な精神・神経疾患によって眼球運動に異常が生じる。本研究の目的は、この眼球運動の異常パターンを特定し、パーキンソン病の客観的な診断や、症状進行を予測する技術の開発である。眼球運動は、(a)ある対象への注視、(b)別の対象への視線移動の準備、(c)視線の移動(サッカード)、という一連の制御が脳内で行われている。これまでの臨床研究では、計測が容易な(c)が主な対象であった。しかし、得られる情報が限定的であることや、患者間での症状のばらつきなどが影響して、矛盾した結果が多数報告されている。これに対し、申請者らは、視線を移動させる前に生じる無意識の微小な眼球運動(マイクロサッカード、瞳孔調整、ドリフト)から、視線移動の準備(b)が解読できる事を明らかにした(e.g., Watanabe et al. 2013 ; Watanabe et al. 投稿中)。さらに、健常者の老化も上記の眼球運動から特定できることを明らかにした(投稿準備中)。これらの知見を元に、パーキンソン病患者20名を対象として、眼球運動の異常パターンの特定を試みた。今回の解析では、パーキンソン病自体、また投薬による眼球運動への効果を分離するため、フレキシブルな統計モデルを構築できる階層ベイズモデルを導入した。モデルフィッティングが現時点で完了したマイクロサッカードの結果では、以下3点が明らかになった : ①マイクロサッカード発生頻度が患者で低下する、②随意運動に伴うマイクロサッカード頻度変化が患者で弱い、③投薬により、これらの効果が改善される傾向にある。以上より、眼球運動の異常パターンから、パーキンソン病の状態、進行状況、投薬の効果を推定できる可能性が見えてきた。今後、引き続き階層ベイズモデルのフィッティングを継続し、結果を国際誌に論文として報告する予定。
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