Outline of Annual Research Achievements |
乱用薬物鑑定において, 位置異性体の識別は法律の適用の可否を判断する上で極めて重要である. 本研究では, 危険ドラッグの誘導体化に芳香族求核置換(SNAr)反応/芳香族求電子置換(SEAr)反応を利用した位置異性体識別法の開発を試みた. 反応対象には, o-, m-, p-fluoropyrrolidinopropiophenone(FPPP)およびo-, m-, p-fluoromethcathinone(FMC)を用いた. SNAr反応としてTriton Bを利用した芳香族アルコキシル化反応を行った. メタノールを求核試薬としたところ, p-FPPPからp-methoxypyrrolidinopropiophenoneへ高い収率で変換できることがわかった. 一方, o-FPPPおよびm-FPPPでは目的の反応は進行しなかったが, 異性部位以外同一構造の副反応物(分子イオンピーク : m/z 288)の生成が確認された. それらのマススペクトルは, o-FPPPで特徴的なフラグメントイオン(m/z 172)が検出され, かつ複数のフラグメントイオンでシグナル強度に差異がみられた. 一方, FMCを反応対象とした場合は, いずれの位置異性体でも目的の反応は進行せず, 多様な副反応が生起した. SEAr反応として芳香族ニトロ化反応を行った. p-FPPPではフッ素に対してortho位にニトロ基が1つ導入されたが, o-FPPPおよびm-FPPPでは反応は進行しなかった. 一方, FMCの場合, p-FMCではフッ素に対してortho位にニトロ基が1つ, m-FMCではカルボニル基に対してortho位かつフッ素に対してpara位に1つ導入された. o-FMCでは反応は進行しなかった. 以上より, FPPPにはSNAr反応を, FMCにはSEAr反応を利用することで, 置換位置に応じた特徴的な生成物が得られ, 各種位置異性体を識別できることがわかった.
|