Outline of Annual Research Achievements |
本研究は, ポスターを中心とする非文字資料を活用した高等学校世界史の授業を構想し実践したものである。文書の読解を通じて学ぶ歴史とは違って, 弱者の視点と大衆の意識を探ることによって多角的な歴史理解を促すことができると考えたからである。 歴史民俗博物館の博学連携研究員として, 同館の貸出教材とデジタルアーカイブスを利用し, 事前学習を行った上で, 同館の展示室において講義と演習を行った。何に着目すればよいのかを指摘して理解を深めさせた。戦時中ポスターをより深く理解させるため, 英語のキャプションを考えさせ, 異文化理解につながる授業の展開を構想した。 戦時中ポスターを所蔵する江戸東京博物館において資料調査を行った。閲覧や借用はできなかったが, 目録を通じて所蔵資料の全体像を把握することに努めた。また, 平和学習を進める上で, 博物館等の果たす役割を調べるため, 舞鶴引揚記念館と満蒙開拓平和記念館を訪問して, 語り部の戦争体験を聴講するとともに, 運営上の課題について聞き取り調査を行った。 中国・大連を訪問し, 現地の研究者や新聞記者と, 日中関係や歴史問題について意見を交換した。歴史認識に関して, 十分なコミュニケーション能力を伴わないと誤解を生じる可能性が高くなると改めて感じた。 成果として明らかになった点は以下のとおりである。 博物館における平和学習の可能性を新たに探ることができた。平和を戦争に対置させるだけでなく, 不況や思想弾圧などの抑圧が背景にした暴力が平和を阻んでいることを授業の柱に据えるべきだと考えた。歴史資料を読むにあたって, 時代背景を知ることは重要である。授業でポツダム宣言を扱う際に, 近代日本の歩みを俯瞰し, 広く歴史の流れの中に資料価値を位置づけようとしたとき, 博物館の有効性を感じた。
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