Outline of Annual Research Achievements |
1. 研究目的 コウチュウ目ツチハンミョウ科に属するマメハンミョウEpicauta gorhamiは, 北海道と沖縄を除く日本各地に生息する昆虫である. 本種成虫には地理的な形態二型が認められ, 関東以西の個体群には黒色の上翅に白線がある(以下, 白タイプ)のに対し, 東北や北陸は白線が無く黒一色(以下, 黒タイプ)である. 本研究ではマメハンミョウの形態二型が異なる種として分化しているかを調べるために, 日本各地の個体群を用いて交配実験と系統解析を行った. 2. 研究方法と成果 (1) 交配実験 : 異なる形態の個体群内で交配したところ(白タイプ : 埼玉, 黒タイプ : 岩手), F2世代まで子孫が生存できたことから, 生殖隔離(遺伝子の交流がなく子孫を残さない=異なる種として考える : Mayr, 1942)は見られなかった. また, 交配して得られた子孫の上翅形態は白線の濃さが異なる“中間型”となり, 個体ごとに変異が見られた. (2) 系統解析 : 日本6地点(白タイプ : 埼玉, 佐賀, 宮崎2地点, 黒タイプ : 宮城, 新潟)の個体群について, ミトコンドリアDNA(COI, IIおよびND3, 4)と核DNA(EF-laおよびITS2)の塩基配列を用いて分子系統解析を行ったが, 系統関係に地理的な相関は示せなかった. しかしながら, 形態の変異には明確な地理的相関が認められることから, 最適な進化速度のDNAマーカーを用いることで, 分子系統解析において地理的・形態的なクレードが形成されると考えている. 本種の幼虫は土中のバッタ類の卵のみを摂食し, 齢ごとに形態を劇的に変化させる過変態をして, 特殊な形態をした5齢幼虫(擬蛹)で休眠するなど他の昆虫では見られないユニークな生態を持つことから, 多くの昆虫学者の目を惹いてきたが, 飼育が困難であるため先行研究が少なく, 分子生物学的な情報も乏しい. 今後は更なる分子解析を行い, 本種の系統解析に適したDNAマーカーの探索を進めていきたい. そして本研究の過程と結果を基に「種分化」を考察する学生実習の教材として利活用していく.
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