Outline of Annual Research Achievements |
解析に使用可能であった低分化型大腸癌29例に対して、ゲノムミスマッチ修復機構を担うmismatch repair(MMR)タンパク質4種(MLH1, PMS2, MSH2, MSH6)に対する免疫組織化学染色を実施した。4種類が陽性を示した症例をMMR protein proficient(MMR-P)、少なくとも1種類が陰性を示した症例をMMR protein deficient(MMR-D)とした。29例中17症例がMMR-P、12症例がMMR-Dであった。臨床病理学的因子と関係性を統計学的に解析すると、MMR-Pに比較してMMR-Dは有意にリンパ節転移率、ステージが低く良好な予後を示すことが判明した。全症例に対してLGR5 RNA in situ hybridizationを実施し、陽性シグナル数を基に半定量的指標であるH-scoreを算出した。MMR-P, MMR-DにおけるLGR5 H-scoreの平均値は、各々62.9(24.2-136.2), 22.7(8.6-61.0)であり、MMR-DにおけるLGR5 H-scoreはMMR-Pに比較して優位に低値(p=0.0172)であることが判明した。さらに、LGR5の発現に関与するβ-cateninに対する免疫組織化学染色を実施し、核内陽性率と染色強度からβ-catenin IHC scoreを算出した。MMR-P, MMR-Dにおけるβ-catenin IHC scoreは、各々104.5(81.3-285.8), 23.9(9.9-77.1)であり、MMR-Dにおいて有意に低値(p=0.002)を示した。またLGR5 H-scoreとβ-catenin IHC scoreの相関関係を解析すると、全症例(r=0.728, p<0.001)、MMR-P(r=0.679, p=0.003)、MMR-D(r=0.692, p<0.013)のどの群においても正相関を示すことが判明した。 散発性大腸癌の80%以上はAPCの不活性化を契機としたWnt/β-cateninシグナル伝達経路の活性化を介した発癌経路をたどる。一方でMMR-Dを示す大腸癌はミスマッチ修復機構の異常による遺伝子変異の蓄積が発癌をもたらす。これら発癌機構の差異がMMR-DにおけるLGR5の低発現の要因であることが示唆された。これまでMMR-P、MMR-Dにおける予後の違いは、MMR-Dにおいて腫瘍周囲に高度な炎症細胞浸潤を伴うという特徴が、癌細胞の浸潤、転移に対して抑制的に作用しているのではないかと考察されてきた。一方で、本研究から得られたMMR-DにおけるLGR5陽性癌幹細胞含有が低いという知見は、発癌モデルに基づく予後の差異を規定する新たなメカニズムの一つである可能性が考えられる。
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