江戸語・東京語におけるコミュニケーション類型の研究
Project/Area Number |
18K00624
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 02070:Japanese linguistics-related
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
小川 栄一 武蔵大学, 人文学部, 教授 (70160744)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2022: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2021: ¥130,000 (Direct Cost: ¥100,000、Indirect Cost: ¥30,000)
Fiscal Year 2020: ¥130,000 (Direct Cost: ¥100,000、Indirect Cost: ¥30,000)
Fiscal Year 2019: ¥130,000 (Direct Cost: ¥100,000、Indirect Cost: ¥30,000)
Fiscal Year 2018: ¥260,000 (Direct Cost: ¥200,000、Indirect Cost: ¥60,000)
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Keywords | 談話分析 / コミュニケーション / 敬語行動 / 浮世風呂 / 江戸語 / 江戸の経済 / 夏目漱石 / 東京語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、日本語コミュニケーションが歴史的にどのように変化したか、その過程の探究を進めている。談話分析の方法を活用して会話の類型化を行い、それらがどのように変化したかを記述する。会話の資料として式亭三馬『浮世風呂』(文化6~10年・1809~13)を取り上げて、会話全体を類型に分類するとともに、当時の社会的、経済的、文化的背景を視野に入れつつ考察を進めていく。 『浮世風呂』の会話を、A協調タイプ、B競争タイプの2つに大別する。Aは、話し手と聞き手が心理的に協調しながら実行されている会話で、その口調は穏やかでなごやかである。Bは、話し手と聞き手が対立しているか、または、話し手・聞き手に共通して対立する人物があって、その人物を批判・非難する内容の会話で、その口調は攻撃的で鋭い。この両タイプを詳細に観察して、以下9種に分類できる。 A協調タイプ (1)情報・知識型 (2)教導・向学型 (3)共感・共鳴型 (4)冗談・娯楽型 (5)保護・甘え型(幼児・弱者型) (6)尊大・従属型 B競争タイプ (7)競争・批判型 (8)愚痴・宥め型 (9)ケンカ・対立型 会話型の2分類は応答詞と相関する。『浮世風呂』には、話し手の会話に対して肯定的に応答する語として、ハイ、ハイハイ、アイ、アイサ、ヘイ、ヘヱなどがあるが、各会話型に現れるこれらの出現率を算定すると、(1)から(6)までのAタイプにおいて出現率が高い(3.1%)。これに対して、Bタイプの平均は0.6%と低い。AタイプはBタイプよりも、相手の発言を肯定的に受ける場合が5倍以上多い。また、話し手の階層との間にも顕著な相関があり、階層が高いほどA協調タイプの率が高く、階層が低いほどB競争タイプの率が高くなる傾向が現れている。その原因となる背景について、江戸後期における経済発展によるものと推測している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最近3年間にわたり、コロナ禍に伴う大学におけるオンライン授業の準備などに多くの時間をとられてしまったので、当初の予定より約1年遅れている。しかし、「研究実績の概要」にも記したとおり、結論に到達する見通しは立っている。A協調タイプ、B競争タイプという会話の2類型が、話し手の階層との間にも顕著な相関があること、すなわち、階層が高いほどA協調タイプの率が高く、階層が低いほどB競争タイプの率が高くなることについて、これを数値の算出によって実証するとともに、その背景についても江戸後期における経済状況と結びつけて明らかにすべく考察を進めている。現在、その成果をまとめた報告書(400字詰め原稿用紙約800枚)を執筆中である。 以上により、(2)と自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、会話型と話し手の階層とが相関する原因について探求する。次の見通しをもっている。そもそも、階層の上下とは何かといえば、所詮は経済力の違いといえる。階層が高いほど多くの収入があり、それだけ大きな商業的経営を行っていることである。『浮世風呂』の当時、式亭三馬が薬種業を営んだ日本橋周辺においても、その同業者となる薬種問屋、三井越後屋や白木屋などの呉服問屋、小間物問屋を始めとして数多くの店が立ち並んでいた。商店相互の競争が激しくなるに従って、顧客との良好な人間関係を築くためにも、適切なコミュニケーションの必要性が増したことであろう。商人にとってコミュニケーションのやり方は良好な人間関係を構築するものとして有効なものと考えられる。 そのことが如実にわかる例として、三編上にある番頭と女客との会話が挙げられる。若い下女たちからお湯を浴びせられ、真っ赤になって怒りだした中っ腹の年増女を、番頭が宥めるものである。この会話において、番頭は敬語を多用する。これに対して年増女は、最初から最後まで乱暴な言い方である。敬語の多少の差は主張に影響する。敬語を多用する番頭の方が、自分の主張を徹底させている。次第に、年増女も番頭の説得に負けて、最終的に、年増女の怒りを静め、湯をかけた下女たちにも注意して、事態を収拾している。これは三馬の創作には違いないが、番頭のコミュニケーションスキルは巧みである。銭湯は個人経営で、さほどの規模ではないが、そんな番頭であっても、店の経営を順調に進めるには一定のコミュニケーションスキルが必須であったことがわかる。階層の高い者ほどコミュニケーションに長けており、結果、A協調タイプの会話を用いる率が高まるものと考えられる。 上記の見通しに立って、階層と会話型との相関について検討を重ね、数値の算出によって実証するとともに、報告書の執筆を進めている。
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Report
(5 results)
Research Products
(2 results)