Research Abstract |
【目的】本研究の目的は,認知症高齢者の主観的QOL評価尺度としてLawtonらが開発したApparent Affect Rating Scale(AARS)が,わが国の認知症高齢者にも使用可能であるのか,日本語訳の判断基準を使用して評価を行った場合の信頼性を検討することである.研究疑問は,「わが国の認知症高齢者に対するAARSの信頼性は高いのか」である. 【方法】1.対象:認知症高齢者を改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)20点以下の65歳以上の者,HDS-R10〜20点を軽度認知症,HDS-R9点以下を重度認知症と操作的に定義した.家族より研究参加への承諾が文書にて得られた某介護老人保健施設入所者15名を対象とした。対象の属性は平均年齢86(SD6.3)歳,女性11名・男性4名,血管性認知症9名・アルツハイマー型老年認知症5名・パーキンソン病1名,HDS-R平均10.1(SD7.35)点,NMスケール平均22.9(SD12.92)点,障害老人の日常生活自立度ランクA:1名・B:12名・C:2名,痴呆性老人(認知症高齢者)の日常生活自立度ランクI:4名・II:2名・III:7名・IV=2名であった.2.方法:対象が施設共用空間で過ごす様子を1回あたり5分間のビデオ撮影を複数回行った.2名の評価者がビデオ記録を観察しAARSを用いて評価を行い,うち1名の評価者は再度AARSを用いて2〜3週間後に評価を行った.3.データ分析:AARS得点の±1点差までを一致とみなし,評価者間一致率とテスト-再テスト一致率を求めた.また,不一致率について母不良率の検定を危険率5%で行った. 【結果】評価対象ビデオ記録は67回分(重度認知症34回分,軽度認知症33回分)であった.1.評価者間一致率;満足45,興味0.75,楽しみ0.33,不安0.85,怒り0.94,悲哀0.82を示し,母不良率の検定では満足,楽しみに有意差を認めず他の項目は有意差を認めた.重症度別では,重度群は満足0.62,興味0.77,楽しみ0.44,不安0.74,怒り0.88,悲哀0.68を示し,軽度群は満足0.27,興味0.73,楽しみ0.21,不安0.97,怒り1.00,悲哀0.97を示した.母不良率の検定では重度群,軽度群ともに満足,楽しみに有意差を認めず他の項目は有意差を認めた.2.テスト-再テスト間一致率;満足0.75,興味0.69,楽しみ0.76,不安0.91,怒り0.96,悲哀0.94を示し,それぞれ母不良率の検定で有意差を認めた.重症度別では,重度群は満足0.76,興味0.74,楽しみ0.91,不安0.85,怒り0.91,悲哀0.88を示し,軽度群は満足0.73,興味0.64,楽しみ0.61,不安0.97,怒り1.00,悲哀1.00を示した.母不良率の検定ではすべての項目に有意差を認めた. 【考察】主観的QOLとして重視される感情の評価尺度としてLawtonらが開発したAARSは,わが国の認知症高齢者を対象とした場合では評価者間一致率,テスト-再テスト一致率ともに興味,不安,怒り,悲哀の項目では有意に高い値を示し,臨床応用の可能性が高いことが示唆された.しかし,満足,楽しみの項目については評価者間一致率が有意に低く,判断基準の検討が今後の課題と考えられた.
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