近代的家族像の歴史研究としての20世紀前半における英国精神分析の動向
Project/Area Number |
19K00015
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 01010:Philosophy and ethics-related
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Research Institution | Health Sciences University of Hokkaido |
Principal Investigator |
松本 由起子 北海道医療大学, 心理科学部, 講師 (10438335)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野々村 淑子 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (70301330)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2023)
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Budget Amount *help |
¥4,420,000 (Direct Cost: ¥3,400,000、Indirect Cost: ¥1,020,000)
Fiscal Year 2021: ¥910,000 (Direct Cost: ¥700,000、Indirect Cost: ¥210,000)
Fiscal Year 2020: ¥2,080,000 (Direct Cost: ¥1,600,000、Indirect Cost: ¥480,000)
Fiscal Year 2019: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
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Keywords | 子ども / 心理化 / 医療化 / 母親 / 愛着理論 / 保護複合体 / 家族史 / 精神分析 / 子ども史 / エディプス / 母子関係 / イギリス / 家族像 / 教育制度 / 階級 / 英国 / 近代的家族像 / 20世紀前半 / 歴史研究 |
Outline of Research at the Start |
精神分析の動向を分析のディスクールに差し戻して普遍化しようとする力に逆らって、「論争」前後の分析理論と実践に立ち入り、その規範的家族像を分析当事者である分析家の家族像とあわせて検討することで、長いスパンの近代家族史のうちに歴史化する。
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Outline of Annual Research Achievements |
この研究では「科学」たろうとする精神分析の「普遍化」への志向に一次史料をもって逆らい、精神分析における家族像の推移を歴史化しようとしている。
本年度は、第二次世界大戦後にWHOの報告書として折紙付で発表され、世界的に影響力を持ち、いまも影響を残すジョン・ボウルビィが提唱した「愛着理論」、すなわち「発達早期の子どもと母親のあいだの<愛着>に問題があると、子どもは生涯にわたるダメージを受ける」とし、それを種を超えた普遍性をもつ科学的事実とみなすものが、史料を精査すると歴史的構築物であることを、『医学が子どもを見出すとき』(勁草書房)の第7章で示した。また、「精神分析」に立脚するとされる「愛着理論」は、精神分析界ではむしろ敵意をもって迎えられ、同時期の精神分析が子どもをめぐって闘った「論争」から乖離したものであったことを示した。
「愛着理論」は(1)避妊の普及による1家庭あたりの子どもの数の減少、経済水準の向上、労働市場からの女性の排除が同時に進行し、家庭における「緊密な母子関係」の可能性が広まった時期に、その不備を問うかたちで児童保護制度が展開する中から生まれており、(2)その時期に構成されていった多様な専門家のネットワークとしての保護複合体は、「常に子どもに一緒にといられる母親」という伝統的な中産階級的母親像を持っていた。(3)<愛着>というキーワードは、社会階層が強く限定される1930年代後半の非行少年の例において見出されたが、社会経済的側面を曖昧にした記述で一般化され、追って第二次世界大戦の疎開児・被災児に見られる「母子分離によるダメージ」で普遍化され、ラジオ番組などのメディアを通じて喧伝された。精神分析も、成立期来の家族像の変化を、20年代から児童分析が見出した母子関係のうちに捉えていたが、そこで問われていたのは、子どもが内面化せずにはいない親の像の在り方であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
海外の2名の研究協力者を前提に計画した本研究であるが、研究期間中のコロナ禍のために招聘が叶わなかった。さらに当初予定の最終年度であった2023年度には、研究代表者の疾病・手術のため、計画していたセミナー等を開催できなかった。 これらの状況を踏まえて研究期間を再度延長し、2024年度を最終年度として研究をとりまとめることとした。昨今の円安等の影響により、海外研究者の招聘については難しい側面があるため、両研究協力者とも合議の上、オンライン等も含めたセミナー開催を検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
精神分析における家族像が、近代家族史の視点に立つと、いかに構築・維持されてきたかを、精神分析家、精神分析史家・家族史の専門家らで討議するセミナーを踏まえて論文化する。具体的には、
(1)フロイト後の精神分析について、家族史・子ども史の視点に立つ研究代表者と共同研究者から、精神分析家である共同研究者2名に向けて、クライン派における「子どもが当初から内面化せずにはいない対象としての母」という「幻想」が、外的現実としての家族像を遠ざけ、精神分析的家族像を、社会史的・家族史的解釈から切り離し「普遍化」する機能を持っているのではないかという可能性を提示して議論を行う。 (2)2023年度の共著で示したように、精神分析から「愛着理論」が派生する過程における「保護複合体」による家族への福祉的介入は、(a)労働者階級の児童が圧倒的に主たる対象にしていたこと、(b)中産階級的家族像をモデルにしていたことを踏まえて、英国における教育の階級性は、家族像規範の強化ツールになっているのではないかとの可能性を示して議論を行う。 (3)上記を踏まえて、精神分析史と家族史を統合した新たな知見を発信する。
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Report
(5 results)
Research Products
(6 results)