「仲裁の消費者化」の法理・実態・展開過程:現代アメリカ「ビジネス保守」の法文化
Project/Area Number |
19K01242
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Section | 一般 |
Review Section |
Basic Section 05010:Legal theory and history-related
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
会澤 恒 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (70322782)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥4,160,000 (Direct Cost: ¥3,200,000、Indirect Cost: ¥960,000)
Fiscal Year 2021: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,000,000、Indirect Cost: ¥300,000)
Fiscal Year 2020: ¥1,690,000 (Direct Cost: ¥1,300,000、Indirect Cost: ¥390,000)
Fiscal Year 2019: ¥1,170,000 (Direct Cost: ¥900,000、Indirect Cost: ¥270,000)
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Keywords | 私人による法実現 / 仲裁の消費者化 / 民事司法の縮小 / クラスアクションの放棄 / 制定法上の訴権 / 現代アメリカのビジネス保守 / マス・アービトレーション / 事件性の要請と事実上の損害 / 形式主義的契約法 / 私人による法実現・法執行 / アメリカ法の保守化 |
Outline of Research at the Start |
本研究は、事業者が消費者契約や労働契約の約款中に仲裁条項を挿入する契約実務とそれに関する判例・立法動向を素材とし、そこに現れるビジネス保守が主導する現代アメリカ法の特徴を分析する。これについて、現行法の構造の検討とそこに現れる契約観の契約法学史への定位、消費者仲裁の実態解明、「仲裁の消費者化」をめぐる政策過程とそこでの議論状況の分析の3つの視角から検討を加える。これらの諸側面に現れる、ビジネスの自由な活動領域の確保が国民生活一般にとっても望ましいとの社会秩序構想が支持を獲得していることを明らかにする。本研究の成果は我が国の消費者保護や労働者保護のあり方についての検討にも示唆を与えるであろう。
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Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、米国における仲裁の消費者化をめぐる実定法規範の構造と背景にある法文化・政治過程の検討を通じて、「私人による法実現」のあり方について再検討を加える。 本年度は、米国仲裁機関において行われているクラス仲裁について検討した。クラス仲裁規則では、簡便さ・迅速性を強調する伝統的な二当事者間仲裁と異なり、「丁寧な」、裏を返せば負担の重い手続進行となっているのが特徴的である。また、原則として機密性はない、というのも一般的な仲裁とは異なり、集合的救済の公益的・政策形成的機能に配慮している、と評価できる。だが、実際の運用状況についての調査によると、一部の(具体的には「雇用」カテゴリの)事件類型を除くと、クラス仲裁が積極的に活用されているとは言い難い。その原因は、クラスアクション・クラス仲裁に敵対的な法実務と、伝統的二当事者間仲裁とクラス仲裁とは決定的に異なるとの認識の下、後者に対して懐疑的な合衆国最高裁の判例法にある。 だが、それに対する逆方向の動きを見出したのは本年度最大の発見であった。同様の立場にある当事者(具体的にはいわゆるギグ・ワーカー)から受任した弁護士が、彼らを雇用する企業に対して、個別仲裁を多数、一斉に申し立てる、という実務が直近の米国で行われている(現地では「マス・アービトレーション」などと呼ばれる)。従来とは逆に労働者の側が仲裁付託強制を裁判所に求める、ということも見られる。企業側が申立ての回避を試みるのは仲裁費用の負担が企業側にあるためであるが、そのような費用負担が約定されているのは、さもないと制定法が労働者に与えている訴権について仲裁付託を否定される可能性があるからである。その根拠である「効果的権利主張」法理について、本研究では以前、消極的に解していたが、マス・アービトレーションのような事象での積極的な機能が看取され、改めて検討を加える必要が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで曖昧なままであったクラス仲裁について、制度面のみならず運用面も含めて明らかにし、公刊できたのは大きな進展である。邦語でアクセス可能なものとしては唯一の文献であると自負している。 マス・アービトレーションという、従前とは逆方向の動向を見出すことができたのは画期的であった。仲裁を活用するビジネス界と、これに抵抗する消費者・労働者という、本研究の基本的な視角とは異なる事象であり、分析が複雑化する面もあるが、従前のあり方の限界が明らかになったということでもあり、本研究の締めくくりの検討対象に相応しい。
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Strategy for Future Research Activity |
パンデミックの影響もあって人の移動が差し控えられ、他方でオンライン会議が普及したことから、後者を活用して研究活動を行ってきた。だが、オンラインでは十分に意見交換を尽くせない面もあり、積極的に対面での調査・意見交換・成果発表の機会を設けたい。 マス・アービトレーションという、本研究の主題に直接に関わりつつも、基本的な分析枠組みとは異なる事象を見出した。あまりに射程を広げすぎて取り纏めにあたり混乱が生じる虞には注意しつつ、本研究の着地点たる分析対象としたい。
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Report
(4 results)
Research Products
(5 results)