ムスリム移住者との共生:国際人権法から見たデンマーク新政策の事例
Project/Area Number |
19K23166
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Research Activity Start-up
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Review Section |
0105:Law and related fields
|
Research Institution | Osaka Jogakuin College |
Principal Investigator |
高橋 宗瑠 大阪女学院大学, 国際・英語学部, 教授 (40844600)
|
Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2022-03-31
|
Project Status |
Granted (Fiscal Year 2020)
|
Budget Amount *help |
¥2,860,000 (Direct Cost: ¥2,200,000、Indirect Cost: ¥660,000)
Fiscal Year 2020: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
Fiscal Year 2019: ¥1,430,000 (Direct Cost: ¥1,100,000、Indirect Cost: ¥330,000)
|
Keywords | 共生 / 移住者 / 人権 / 国際人権法 / ムスリム / デンマーク |
Outline of Research at the Start |
移住者の人権保護を根幹とした多文化共生の重要性が再認識されているが、欧州のいくつかの国ではイスラームを異質なものとして排除する風潮が顕著になり、移住者を含むムスリムの人権の保護が重要な課題になっている。2018年にデンマークで新しく導入された政策ではムスリムが多く住む特定地区は「ゲットー」とされ、1歳児は「デンマーク的価値観」を学習する特別な学校に通学することを義務化されるなど、特別な措置を設けている。本研究はこれらの政策を分析し、その目的や導入に至った経緯、及び住民に対する影響を明らかにする。研究成果は移住者との共生を求められている日本でも、政策立案に影響を与えることが期待される。
|
Outline of Annual Research Achievements |
コロナウィルス国際蔓延のために予定していた現地調査を延期し、インターネットを通じた実務家や研究者とのやり取りや、デンマークのメディアや文献や資料などを使った研究に徹した。最近デンマーク政府が「ゲットー」という言葉の使用こそ中止したものの、政策の内容は変わらず、引き続き「共生」でなく「移住者に同化を強制する」方向で進んでいると言える。この関連で特に、parallel society(元は独語Parallelgesellschaft)のナラティブが引き続き政府やメディアなどで強調されていることを見逃せない。そのナラティブとは即ち、デンマーク社会に同化する意思(もしくは能力)がないムスリム住民が特定地域に密集して居住し、そこでは主流の社会と接触がほとんどなく、警察も恐怖で立ち入ることができず、イスラーム法などが適用される「平行した社会」がある、というものである。当然それに現実性は乏しいのであるが公然と謳われ、そのゲットー政策など様々な政策の根拠として使われているのが実態である。
2021年4月にマレーシア政府関係者より、2019年12月に招待されてスピーカーとして参加したクアラルンプール・サミットの第二会議は2022年中に開催予定であること、その際もスピーカーとして参加してほしいとの連絡を受けた。本サミットはムスリム諸国の国家元首を始め著名な知識人を集めるもので、その場で本研究も含め国際的イスラマフォビアの動向について言及できるのは、極めて有意義と考える。なお2020年12月に、クアラルンプールサミットで話したことを短くまとめた寄稿文が、トルコの主要シンクタンクであり、毎年発行されるEuropean Islamophobia Reportの発行元であるSETAのオンライン誌のPolitics Todayによって発行された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画書では2020年の2月に続き、2020年9月及び2021年2月に現地調査を実施する予定であったが、コロナウィルス国際蔓延で国際的移動が事実上止められ、延期を余儀なくされた。インターネットを使った情報収集や実務家、研究者などとの相互連絡は取り合っており、可能な限り早く現地を訪れて状況を確認したいと願うばかりである。調査以外にも、発表を予定していたカンファレンスはどれも延期もしくは中止となった。
「あらゆる形態の人種差別を撤廃する国際条約」の締約国として、デンマークは条約の履行を監視する人種差別撤廃委員会(独立した専門家より構成)の定期審査を受ける予定である。審査にはNGOが提出する情報も極めて重要な役割を果たすので、デンマーク内主要NGOで共同で人種差別撤廃委員会に提出する報告書の作成の、実務家メールグループに参加した。複数の文案にコメントをし、国際人権の視点がより鮮明に伝わるように助言した。2020年5月に予定されていた定期審査はコロナウィルスで再度延期され、現時点では2021年8月に行われる予定である。なお本定期審査以外にも、やり取りがメールグループで続いている。
2020年5月、国際的ジャーナルであるIslamophobia Studies Journal「アジアにおけるイスラマフォビア特別号」に、依頼されて論文を寄稿した。日本の歴史及び現状がトピックで、より広い意味でのイスラマフォビアという国際的事象の歴史及び形態を改めて検証する意味でデンマークとの関連性は深い。特別号は2021年の間に発行される予定である。また、2020年9月にIslamophobia Studies Center主催のウェビナーで発表し、2回に渡ってマレーシアのテレビ放送局にイスラマフォビアと人権というトピックで取材された。どれでもデンマークの状況に言及し、研究の成果を伝えた。
|
Strategy for Future Research Activity |
コロナウィルス国際蔓延で去年度の現地調査の実施を延期することになったが、今年度は可能な限り2021年9月、やはり国際蔓延でそれが可能でなければ2022年2月に現地調査を予定している。同時にインターネット及び紙媒体ですでに発表されている論文や文献を通した研究をする上に、インターネットを通した現地の関係者とのインタビューなどのコミュニケーションに努めている。また、カンファレンスなどがオンラインで行われることが増えているので、該当性が高いものを探し、発表の機会を模索している。
アメリカのカリフォルニア州立大学バークレー校とイギリスのリーズ大学が共同で設置しているIslamophobia Studies Centerの設立者などが中心となり、初めてのイスラマフォビア国際学会設立に向けての動きが進んでいる。筆者も企画段階から関係しており、カナダの公的研究支援機関のグラントのための応募書類などの作成に携わってきた。2021年4月に、グラント採用の見通しがつき、初代財務理事を務めてもらいたいとの旨の連絡をもらった。イスラマフォビアに関する最先端の研究に関わり、世界の最新の動向に関して情報を得ながら本研究を進めていきたい。
デンマークが移住労働者を多く受け入れた当初(主に1970年代)は、移住労働者は家族を同伴せず、決まった期間に達すれば帰国する(というよりしてもらう)、というのが原則であった。しかし時が経つに連れて帰国は難しくなりそのまま残留した、という経緯がある。日本でも最近導入した特殊技能制度も基本的に「長期の移住が前提でない」ということになっているが、やはり最初から永続的な共生に向けた政策が必要であろう。なお本研究を通じて、ヨーロッパ各国の様々な「共生の形」に関してより深く知るに至っており、日本の共生政策へのヒントを得るためにも、どのように発展させられるかを検討している。
|
Report
(2 results)
Research Products
(4 results)