Project/Area Number |
20K20413
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Project/Area Number (Other) |
19H05480 (2019)
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Research (Pioneering)
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Allocation Type | Multi-year Fund (2020) Single-year Grants (2019) |
Review Section |
Medium-sized Section 4:Geography, cultural anthropology, folklore, and related fields
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Research Institution | Professional Institute of International Fashion |
Principal Investigator |
田中 雅一 国際ファッション専門職大学, 国際ファッション学部, 教授 (00188335)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
根本 雅也 松山大学, 人文学部, 准教授 (00707383)
直野 章子 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (10404013)
野村 真理 金沢大学, 人間社会研究域, 客員研究員 (20164741)
小田 博志 北海道大学, 文学研究院, 教授 (30333579)
松嶋 健 広島大学, 人間社会科学研究科(社), 准教授 (40580882)
菅原 祥 京都産業大学, 現代社会学部, 准教授 (80739409)
楊 小平 東亜大学, 人間科学部, 客員研究員 (30736260)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥25,480,000 (Direct Cost: ¥19,600,000、Indirect Cost: ¥5,880,000)
Fiscal Year 2022: ¥5,070,000 (Direct Cost: ¥3,900,000、Indirect Cost: ¥1,170,000)
Fiscal Year 2021: ¥7,800,000 (Direct Cost: ¥6,000,000、Indirect Cost: ¥1,800,000)
Fiscal Year 2020: ¥5,980,000 (Direct Cost: ¥4,600,000、Indirect Cost: ¥1,380,000)
Fiscal Year 2019: ¥6,630,000 (Direct Cost: ¥5,100,000、Indirect Cost: ¥1,530,000)
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Keywords | トラウマ / 物 / 語り / アート / 宗教 / もの |
Outline of Research at the Start |
本研究の目的は、もの、語り、アート、宗教の分野を中心にどのような形でトラウマ(心的外傷)体験が共有・継承されてきたのか、その阻害要因や問題点は何かを、主としてフィールドワークによって解明することである。具体的には、ホロコーストや原爆投下などを取り上げる。本研究の挑戦性は、博物館、ナラティヴ、アート、宗教などの文化・社会実践とトラウマとの関係に注目することで、人文・社会科学からのトラウマ研究を開拓すること、ヨーロッパと日本をフィールドワークの対象とすること、個人レベルでトラウマの共有や継承に伴う二次受傷に着目し、これまで看過されてきたダークツーリズムの問題点に注目することである。
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Outline of Annual Research Achievements |
コロナ禍のため、予定していた海外でのフィールドワークを実施することができなかった。しかし、国内については、コロナ禍での様々な制限が緩和されたため、対面による研究会や共同調査を実施することができた。 共同調査は、1.高野山の宿坊と奥之院における戦争慰霊碑の調査と関係者への聞き取り、2.水俣における水俣病関連施設の調査と関係者への聞き取り、3.岡山・長島にある愛生園ハンセン病療養施設の調査と関係者への聞き取りであった。これらの調査を通じて、トラウマ経験と展示品、語り、アート、宗教との関係を議論した。 研究会での発表タイトルは、「慰霊が喚起するものは何か――南京占領期における日本の宗教団体の動きを踏まえて」、「中東欧・ロシアの歴史戦争」、 「声なき存在の視点から書くこと――脱人間化する表現における虚構と仮構」、「メモリーワークにおける徹底操作と行動化をめぐって」、またゲストスピーカーによる「密教における護摩の機能と役割」、「戦争トラウマ研究、オートエスノグラフィと当事者研究――語り始めた復員日本兵の 2 世たち」、「戦争トラウマの経験と公的言説――戦中・戦後の日本を事例に」 であった。加えて、2022年12月には、ハイブリッドでジャニス・ハーケン・ポートランド州立大学名誉教授を迎えて国際シンポジウム「記憶の存在論と歴史の地平III」(共催)と若手セミナー(主催)を実施した。 代表者は、トラウマ経験と衣服との関係について、独自の調査を行い、「メモリアル・ファッション」(『FAB』4号、2023.3.30)という共著論文を執筆、公刊した。本稿では死者が遺した衣服を対象に、トラウマを考える上で服喪をどのように位置付けるべきかについて論じた。具体的には広島平和記念資料館やアウシュヴィッツ・ビルケナウ博物館、国立ハンセン病資料館における衣服や義足などの展示・収蔵品や被災地のアート作品を扱った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題2年目から最終年度にかけてコロナ禍のため、海外でのフィールドワークを実施することができなかった。このため、国内に目を向け、高野山の宿坊と奥之院における戦争慰霊碑の調査と関係者への聞き取り、水俣における水俣病関連施設の調査と関係者への聞き取り、岡山・長島にある愛生園ハンセン病療養施設の調査と関係者への聞き取りを共同で実施した。これらは、本研究課題の原爆やホロコーストと直接関係しないが、以下の理由から、本研究課題の成果に大きく貢献し、今後の研究の企画に役立った。また、代表者、分担者も成果論文を公表している。よって、「おおむね順調に進展している」と評価した。1.高野山の戦争慰霊碑は、戦中における宗教と戦争との結びつきを強く喚起させるだけでなく、宗教が集合的なトラウマにどのように関わっているのかを理解する上で示唆に富むものであった。広島などの慰霊碑との比較を視野に入れることができた。2.水俣病は日本における最大の公害である。東京に本社を置く大企業が、水俣に建設した工場が垂れ流す排水で不知火海を汚染した。そこでとれた魚を食べた漁師たちやその家族に原因不明の症状が認められ、多くの人が犠牲になった。漁師たちが企業城下町・水俣において周縁的存在であった。ここには、企業の生産至上主義とこれを支援する政治との典型的な関係が認められる。本課題との関係では、ポーランドに進出してユダヤ人労働者を搾取してきたドイツの巨大企業とナチスドイツとの関係を想起させる。3.ハンセン病療養施設は、アウシュヴィッツなどの強制収容所と類似の理念と管理体制にあった。すなわち、社会排除という観点からの隔離や効率的な監視体制や監禁施設の存在である。療養施設での文化・アート実践にも注目した。とはいえ、ユダヤ人差別と異なり、ハンセン病療養施設には、排除と保護という相反する態度が認められる。
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Strategy for Future Research Activity |
海外での調査がコロナ禍のために制限されている状況で実施した高野山、水俣、岡山・長島での調査は、もの(特に展示施設での展示品)、語り、アート、宗教の治癒的機能に着目する本研究課題を深化・拡大することに貢献した。また、ゲストスピーカーの発表から、当事者の視点から戦災や震災など大量死に関わるトラウマ的出来事を考える上で、オートエスノグラフィーという方法が有効であると確信した。これは、自伝的民族誌と呼ばれるもので、執筆者の体験をもとに過去の出来事を記述・分析する手法である。その対象は様々だが、注目したいのは構造的な差別や家族による家庭内暴力(DV)被害である。後者の原因は、戦地における加害の経験と結びついているという点で、本研究課題とも関係する。 他方で、国家や自治体主導による過去の出来事の再編を目論む展示施設の開館、追悼記念碑の建立、水俣における巨大な埋立地の出現は、被害者だけでなく国家や自治体の活動を視野に入れる必要があることを痛感した。 以上の点を念頭に、本研究課題を発展させるために基盤(B)「トラウマ空間におけるメモリーワークと復興事業の文化人類学的研究」を申請し、採択された。対象を原爆投下やホロコーストに限定しないで、戦災、被災、放射能汚染、公害、強制収容に拡大し、新たなメンバーを3人加えた。トラウマ空間とは集合的トラウマと結びついている場所であり、メモリーワークとはトラウマ的出来事の記録や記憶の継承に関わり、治癒的性質を有する当事者の活動(裁判闘争、語りの共有、アート活動、アーカイブ構築、慰霊など)を意味する。復興事業は、自治体や国家主導の行政指導、開発、観光、ジェントリフィケーション、記念碑建立、専門家集団の活動などで、時にトラウマ的出来事の解釈をめぐってメモリーワークと対立する。本研究課題は、今後新規に採択された科研研究課題に継承されることになった。
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