Research Abstract |
本研究の目的は,過疎地域における理科教育の振興のために,出前実験と遠隔教育の混合授業(ブレンディング)を検討し,その経済性分析を行うことである。過疎地域や遠隔地域においては,実施機関の時間的・距離的負担,経済的負担により,出前実験は継続的なものとはなりにくい。そこで,出前実験の前後に遠隔教育を実施することで,教育効果の維持と経済的負担軽減の可能性を検討した。 授業を配信する札幌市(北海道大学)と,そこから300Km以上離れており過疎地域の指定を受けているA町をIPテレビ会議システムで結び,電子顕微鏡と光学顕微鏡を使った理科実験を実施した。遠隔教育のシステム構成は,北大[テレビ会議用PC+テレビ会議ソフト+ビデオカメラ],A町[テレビ会議システム+液晶テレビ]である。当初の計画では,A町の高校生を対象に理科実験を実施する予定であったが,スケジュールの関係で,A町職員の方に協力頂いた。遠隔教育による理科実験では,画質・音質・臨場感・コミュニケーション方法の全てにおいて良好な結果であった。 経済性分析は,主に設備費,人件費,移動費(宿泊費)の3つを費用要因として分析を行った。今回の機器総額を法定耐用年数により減価償却すると,年間約86,000円であった。本事例では出前実験を年間3回以上実施する場合において,遠隔教育の経済性が高いことが明らかになった。 また,遠隔教育の運営方法および体制についてA町職員から聞き取り調査を行った。その結果,予算や人員が十分ではなく,自治体単独による遠隔教育の導入は容易ではない状況であった。過疎地域において遠隔教育を展開するためには,地域性と自治体の規模を考慮し,行政による遠隔教育コーディネーターの必要性が判明した。
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