Research Abstract |
【目的】鮮新世最後期(約270万年前)に,亜寒帯太平洋の表層は低塩分化し,恒久的な塩分躍層が栄養塩の湧昇を妨げた結果,現在よりも温暖だった鮮新世中期には著しく高かった一次生産が激減した(Haug et al., 2005).しかし,時間分解能の高いこの時代の地質記録は特に亜寒帯で少なく,低次生態系の根幹をなし表層水圏環境の指示者である珪藻が,亜寒帯太平洋のこの気候変化にどのように応答したのかは詳らかではなかった.本研究は,海底コア試料を用い,この地質時代の珪藻研究としては最も時間分解能が高い珪藻群集の時間変動を考察することを目的とした.【手法】カムチャッカ半島東方沖より掘削された,時間分解能が1000-3000年間隔の試料群を,各々スミアスライドにマウントして検鏡観察し,場合によっては個体のデジタル記録を行った.【成果】一般に,汎亜寒帯太平洋から得られる最近数10万年間の珪藻化石群集は,氷期・間氷期の気候変動に呼応した周期性を示すことがあるが(Shimada and Hasegawa, 2001 ; Katsuki et al., 2003),本研究で得られた280-230万年前の珪藻殻数変動には,約265万年前に殻数の激減があるものの,当初予想された4万年の周期性は全く見出されなかった.一方,240万年前の浮遊珪藻種Neodenticula seminaeの出現に際しては,この種の殻数は,それ自体が増加するばかりではなく,形態においても,明らかに小型で骨格が薄く脆弱な特異なものを多数伴うことが初めて明らかになった.すなわち,これらの珪藻群集変化は,第三紀・第四紀境界の亜寒帯太平洋の海洋環境が著しく不安定であったことを改めて示唆しており,同時に,この時代のNeodenticula形態が,環境の圧力に応じて種分化が生じる際の進化的過程を検討する好材料であることも明らかになった.
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