Research Abstract |
盲学校の理科の授業の中に,電気回路を流れる電流等を,計測器を使って測る実験テーマがある.教室では盲人用に開発された旧式の音響式電流・電圧計を用いて授業が行われている,しかし,計測値の提示方法がやや複雑で,生徒のみならず指導教員にとっても使い勝手の悪いものであった. 本研究では,視覚の代行感覚としての手指の触覚を利用して値を直感的に読み取ることができる,教具としての電流・電圧計を開発した.盲学校の理科実験の現場の声を反映させながら段階的に改良を行い,従来機との比較を中心に本装置の触知による判読性や操作性など,実用性の面からの評価を行った. 本研究で開発した電流・電圧計は以下の機能と特長をもつ. ・指針と文字盤の位置関係を手探りで認識し,値を読み取るマイコン制御方式のアナログ計測器である. ・文字盤の数値目盛に対応する位置に,指先で触知できる突起および点字表示を備える. ・ステッピングモーターの励磁状態の静止トルクを利用し,手指が触れても容易に指針が動かない. ・ハードウェアの簡略化により,従来機の価格帯に比べて大幅なコストダウンが可能となる. 試用試験では,有効桁までの読み取り課題に対し正解率は80%であった.また,1回の判読に要する平均解答時間は13.2秒で,限られた授業時間内での使用にも支障のないことがわかった. 電気計器は大別すると「アナログ式」と「デジタル式」があるが,両者は使う場面によって相反する長所と短所がある.理科の実験の中では,その指導上の目的・目標に応じて両者を使い分けることが望ましいが,現在までのところ視覚障害者用の「アナログ式」の計器は存在せず,本研究で開発した計器は斬新で先駆け的な提案である.
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