Project/Area Number |
21J00484
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Research Category |
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
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Allocation Type | Single-year Grants |
Section | 国内 |
Review Section |
Basic Section 02040:European literature-related
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
齋藤 由美子 明治大学, 明治大学, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Project Status |
Declined (Fiscal Year 2022)
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Budget Amount *help |
¥2,080,000 (Direct Cost: ¥1,600,000、Indirect Cost: ¥480,000)
Fiscal Year 2022: ¥650,000 (Direct Cost: ¥500,000、Indirect Cost: ¥150,000)
Fiscal Year 2021: ¥780,000 (Direct Cost: ¥600,000、Indirect Cost: ¥180,000)
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Keywords | パウル・ツェラン / 翻訳研究 / ドイツ語文学 / 越境文学 |
Outline of Research at the Start |
本研究の概要は、パウル・ツェランがフランス語からドイツ語へ訳した詩を主にヴァルター・ベンヤミンの翻訳思想と関連付けながら分析し、その成果を基に翻訳をめぐる言説について考察を深めることである。 ツェランは東欧の多民族・多言語都市出身のドイツ系ユダヤ人で、20 世紀を代表する詩人である。生涯にわたってかなりの時間と労力を詩の翻訳に捧げた卓越した多言語翻訳者でもある。 「詩は翻訳不能」という考え方は現在も一般に広く受け入れられているが、ベンヤミンのエッセイ「翻訳者の使命」においては、詩言語においてこそむしろ翻訳は可能である。ツェランの詩訳の分析を通して、このベンヤミンの言葉の意義を探求したい。
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Outline of Annual Research Achievements |
2021年10月1日に日本独文学会秋季研究発表会で「パウル・ツェランの翻訳『若きパルク』分析」というタイトルの発表をオンラインにより行ない、ポール・ヴァレリーの長詩がパウル・ツェランによっていかに翻訳され、その際にいかなる新たな解釈可能性が生じているのか論じた。 「若きパルク」のツェランの翻訳はビューヒナー賞受賞の講演録「子午線」とも関連付けられ、数多くのフランス詩のツェランによる翻訳のなかでも、これまでもっとも研究されてきた。欧米の研究では、ツェランがヴァレリーの詩から逸脱している点について、ツェラン自身の詩の言語やツェランの翻訳の詩学全体の発展プロセスと関連付けて論じられたり、ツェランによるヴァレリーの詩の解釈や評価を基に考察されてきたりした。発表では、上記のような位置付けからは零れ落ちるツェラン訳の特徴を、「身体」に注目して分析することによって明らかにし、その意義を考察することができた。 2020年にオンラインで開催された日本独文学会のシンポジウム「生誕100年パウル・ツェラン―その翻訳と受容の多様性」の原稿を活字化するにあたり、コメンテーターとして小文を寄せ、2021年10月に出版した。 2021年6月にベルリン自由大学で開催されたワークショップ "Celan Uebersetzen"にオンラインで参加しツェランの作品の翻訳に関する知見を得た。2021年7月にパレルモで開催された5年に一度の国際ゲルマニスト会議(IVG)に参加し、ツェランの作品や翻訳およびその年のテーマである越境文化に関する理解を深めた。 国内外でのさまざまなシンポジウムに、一部はコメンテーターとして、オンラインまたは対面で参加し、越境文学に関して学ぶことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
パウル・ツェランがフランス語からドイツ語へ訳したポール・ヴァレリーの長詩「若きパルク」を分析し、その成果を基にツェランの詩言語や翻訳に関して考察を深めることができた。特にこれまでの研究ではまだ十分に議論されていない「coeur(心臓・心)」とその訳語に注目して分析することによって、ツェランの詩訳の新たな解釈を試みた。 国内のツェラン研究者やフランス文学研究者、ロシア文学研究者に分析結果を発表し、多くの示唆を得ることができた。また、その原稿をもとに独文学会で口頭発表を行った。発表やそれに続くディスカッションを通して、これまで日本においてはほとんど取り上げられていなかったツェランによるフランス語からドイツ語への翻訳の諸相を明らかにし、興味を喚起することができた。 予定していたドイツへの渡航は新型コロナウイルス感染拡大のため断念し、国内の資料を集めることに専念した。ツェランの訳詩に関わる資料だけではなく、ツェラン自身の詩およびその先行研究も読み込み、ツェランの翻訳作品の分析に必要な見識を深めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の学会発表をもとに論文を執筆する。分析結果を見直し、2022年9月にオーストリア文学会に論文を投稿する。特に身体論に関する議論を充実させ、さらにジェンダーの視点についても取り入れる予定である。また、ドイツ語とフランス語の言語的特性の差異について考察を深める。 2022年7月にドイツのバンベルク大学で開催される予定のシンポジウムに参加し、多和田葉子のパウル・ツェランおよびその作品をめぐる小説 ”Paul Celan und der chinesische Engel”について口頭発表を行う。この作品においても身体論が重要な役割を果たしている。発表をもとにツェランの「若きパルク」のドイツ語訳に関する論考の考察をすすめる。 J.シュペルヴィエル、R.シャール、H.ミショー、A.デュブーシェなどの作品群のツェラン訳を分析しツェランの翻訳の意義を明らかにする。パリに短期間滞在しとくに独仏間の比較言語学的な問題やフランス文学の翻訳研究に関する知見を広げる。マールバッハ文学資料館にてツェランの翻訳に関する資料の調査を行う。
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